“スタイルブック”とはなんぞや!? 女性タレントが群がる金脈ビジネス

――世の中には、男性がなかなか手に取らないジャンルの本がある。BL(ボーイズラブ)にTL(ティーンズラブ)、イケメン写真集、婦人科系——その種類はさまざまだが、本稿では「スタイルブック」に焦点を当ててみたい。

『RIKA』(角川春樹事務所)

「スタイルブックとはもともと、着装を紹介する書籍や雑誌のことを指します。日本でも戦前からこの呼び方は見られます。ただ、そうした本に掲載されているのはスタイル画も写真もありましたので、当時から明確な定義はありません」と、ファッションの歴史に詳しい武庫川女子大学の井上雅人氏は説明する。

 2017年の現在でもスタイルブックの定義は明確にはないが、ざっくり言えば、モデルや女優、女性アーティストが、自身のファッションやメイク術、美容法、ライフスタイルを、写真中心で紹介する本だ。

 出版業界のひとつの水脈として存在してきたこのジャンルが、近年飽和状態になっているのも、男性諸氏にはあまり知られていないだろう。

「スタイルブックの火付け役は梨花です。彼女が出した『Love myself 梨花』(09年/宝島社)がヒットして、同性人気が高い女性のスタイルブックが売れることを出版社が理解した。その後、平子理沙や風間ゆみえなど、『GLAMOROUS』(講談社)や『SWEET』(宝島社)のような女性誌のモデルやスタイリストが続々とスタイルブックを刊行し、ある程度出揃ったら、さらに下の年齢層の『non-no』(集英社)や『Popteen』(角川春樹事務所)のモデルが出し……と、年齢層と裾野がどんどん広がっていきました。結果、今はインスタグラマーや“インフルエンサー” 、“ブランドプロデューサー” といった肩書の、モデルでもなんでもない人までスタイルブックを刊行するに至っています」(スタイルブック編集経験者)

 編集者がそう語るように、今年に入ってからだけでもダレノガレ明美『MY STYLE』(マガジンハウス)、emma『ビジュアルスタイルブック「emma」』(SDP)、田中彩子『AYAKO's My Style』(ワニブックス)、バンドじゃないもん!『バンもん!スタイルブック』(主婦の友社)、ゆうこす『モテるために生きている!』(ぶんか社)等々、月数冊のペースでスタイルブックに分類される書籍が刊行されている。ダレノガレ明美はともかく、emmaや田中彩子の名前にはピンとこない男性読者も多いだろう。前者は「装苑」(文化出版局)、「NYLON JAPAN」(トランスメディア)で人気を集め、14年から「ViVi」(講談社)専属となったモデル。後者はフォロワーが9万人を超えるインスタグラマーで、「CLASSY」(光文社)で活躍するママ読モでもある人物だ。なお、バンドじゃないもん!はアイドルグループ、“ゆうこす”は現在“インフルエンサー”“モテクリエイター”の肩書で活動する、元HKT48の菅本裕子。確かに、モデルを本業とする人以外の進出が甚だしい。

 こうした状況が生まれている理由のひとつとして、女性誌の編集者はこう語る。

「人気のモデルは、基本的にどこかの雑誌の専属になっている場合がほとんど。専属の子がほかの版元からスタイルブックを出すことはなかなかないので、ファッション誌を持っていない出版社は、モデル以外で女子人気のありそうな人をつかまえてこないといけないわけです。そうすると、YouTuberやインスタグラマーなどの青田買いが始まります。スタイルブックはある程度構成や内容が決まっていて、似通った内容になりがち。特に人気モデルでもなければ編集側がイニシアチブを取って制作できるのも利点です」

 実際にスタイルブックを開いてみると、大雑把にはオシャレ下着や水着のグラビア、私服コーディネート、メイク&美容紹介、お部屋公開、ロングインタビュー、Q&Aあたりが定番企画の様子。制作にかかる費用は「タレントにもよるが、印税抜きで100~200万円程度。連載をまとめたり、インスタからの転載が多ければ印刷費を除いて60~70万円程度で済ませることもあります」(前出・編集者)という。

「取り上げる洋服やメイク用品などにタイアップがつくこともありますが、露骨なものは少ないですね。あとは、海外ロケがある場合に航空会社やホテルのタイアップが入るくらいです。ロケ地はニューヨークやロサンゼルス、ロンドンなどの“オシャレ感”が強い街か、女性人気の高いハワイあたりが定番ですね。サイパンや韓国、台湾のような近場の安いところだと、事務所に対して申し訳が立たない感じもするので……」(前出・女性誌編集者)

 “オシャレ感”というワードが出たところで、改めてこうしたスタイルブックを買う人が何を求めているかを考えてみたい。

「男性に媚びた感じのないおしゃれな女性が出していることから、その人たちの着こなし術や私生活を知りたい! というのが前提ですね。なので、『この人の本とあの人の本、ほとんど同じ構成じゃないか!』といって怒る人はあまりいないと思います。ただ、インスタグラムで人気の女性の場合、インスタからの転載が多いとアマゾンレビューなどで低評価をつけられがちですね。撮り下ろしの分量には敏感だと思います。あと、アーティスティックなページが多すぎると、タレントの自己満足のための本と捉えて怒る読者も。タレントサイドが主導権を握っている場合、こうした事態が起きやすいです。タレントも読者も満足のいくバランスを取ることが大事になってきます」(同)

 近年は梨花のようなヒット本は出ていないというが、今回話を聞いた編集者たちが口を揃えて褒めるのが泉里香の『RIKA』(角川春樹事務所/16年4月刊)だ。「すごく丁寧にできている」「男性ファンも取り込む内容」と、評価が高かった。書籍は、ビスチェ姿で床に寝転がるモノクロ写真からスタート。オシャレさもありつつ、胸がしっかり強調されている。その後のグラビアも、一見可愛らしいワンピース姿を披露しながら、連続ショットの中で横乳だけ写した1枚が混ざっていたり、「ボディメイク」と題した章では男性誌と見紛うようなグラビアが続いたりと、男性向けの要素も多い。実は泉里香がここまでの露出度に挑戦したのは本書が初であり、「モグラ女子」ブームの牽引役としての現在に至るまでの活躍はここから始まったといえるようだ。

「スタイルブックを買うのは、『その人のセンスを買う』という意味合いが強いと思います。だから作る場合には、憧れ8割・親近感2割くらいの見せ方ができると理想的。よほどのことがない限り重版はかからないジャンルですが、親近感が増すような内容であればあるほど、地味に売れ続けるんです。泉里香さんのスタイルブックも、スタイル維持のコツや、仕事が全然なくて苦労した時代の話などを語っているのが高評価の理由だと思います」(前出・編集者)

 とはいえ、門外漢からすれば、インスタグラマーのスタイルブックを読んでも「無名の人の私生活を語られましても」と思ってしまうのが正直なところ。やはりインスタで人気のインフルエンサー・Marikoが出した『mariko_0808 FASHION STYLE BOOK』の質問コーナーでは「Marikoさんはモデル?」という質問が寄せられており、「なんだと思って見ていたんだ?」と、ついズッコケてしまう。むろん、スタイルブックはファンに向けて作られているものなので、そうでない人が読んで鼻白むのはお門違い。だが、さすがにこれだけスタイルブックが乱発されていると、今後は本当に「誰が読むんだ?」という本も生まれてくることになるはずだ。

「インスタで1万人以上のフォロワーがいる女性は、同性の間では知られている感じがあるので、むしろそのフォロワーの中から金の卵を探しています。そうしたインフルエンサーをフォローしている子たちも、美意識が高くてオシャレに敏感な子が多いので。ただ、ステマアカウントもすごく多いので、気が滅入る作業ですが……」(スタイルブック編集者)

 まかり間違って、ステマアカウントの運営者がスタイルブックを出してしまう日も来るのかもしれない。

(文/斎藤 岬)

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