都ファ躍進で表面化――安倍VS麻生、決裂!?自民党内権力抗争

自民党の敵は自民党内にあり?

小池百合子都知事が率いた「都民ファースト」が圧勝した7月の都議選。この結果を見て、自民党に対する逆風を感じた人も多いかもしれない。しかしこの背景には、むしろ自民党内の派閥争いが表面化してきたことが見て取れるという。

圧勝で満面の笑みを見せているだろう、小池百合子都知事。イベントで見せたのは、トレードカラーの緑ではなくて、赤。

 加計学園問題など、安倍政権のスキャンダルに世の不信感が集中するなかで行われた東京都議選。結果は小池百合子氏が率いる「都民ファースト」の圧勝で幕を閉じた。しかし、その評価は正しいのか? 数々の政府系プロジェクトに参画している、経営コンサルタント・クロサカタツヤ氏が、ムードや風に流されやすい日本の政治の実態、また都議選の裏で起きていた権力の暗闘について語る!

 都議選前、ネットを中心に論陣を敷く論客たち(以下、ネット論壇)は、小池都政や都民ファーストに批判的、もしくは「敗北する」という論理を展開していました。僕個人の印象としては、彼らの論理はある意味ではとても“自由”で“合理的”。「候補者は政策で選ぶべき」「豊洲は残すべきではない」などとても科学的で、正しいと感じざるを得ない主張が少なくありませんでした。しかし同時に僕は、「それらの主張の正しさは、都民の投票行動を促す力にはならない」とも感じていました。都議選が終わった今、改めてそれを言い出すのは“後出し”ですが、結果的に「都ファが勝つ」という当初の予想が的中した形になったのです。

 日本では経済的な豊かさのおかげで、政治にある程度無関心でも生きていける社会が長らく続いてきました。そのため、国民、もしくは都民の「どのような政治家に投票すべきか判断する能力」は、残念ながら洗練されていない現実があります。

 今回、政治に対して意識が高い人たちと、都民のマジョリティ間にある、ある種の断絶が露呈しましたが『基礎票の固さ+その時のノリで趨勢が決まる』日本の政治の実態もあらためて浮き彫りにされました。選挙前、いかに生産的な議論があっても、あくまで議論の域を出ない。支持基盤のしっかりした政治家と“ポピュリズムを煽る”政治家によって起きた風で、結果は見えてしまう。そして今回、その風が小池都知事だったのでしょう。それは、ドナルド・トランプ大統領が勝利を収めた、米大統領選の構図に近いものがありそうです。

 ただし、有権者側の判断能力が低いのかと言うと、一概にそうとも言い切れません。政治の裏舞台は常に見えにくいもの、投票者の大半が真実に触れられないまま投票を余儀なくされる構造があるのもまた事実です。

 例えば、加計問題などさまざまなスキャンダルに揺れる政権内部には今、どのような権力争いやパワーバランスが働いているのか。少し掘り下げてみましょう。

 ここ20年ほど、日本の政権内部ではプライマリーバランス(財政規律)に対してどの立場を取るか、という対立が続いてきました。言い換えれば、国の借金ゼロを目指すのか、もしくは借金=財政出動して景気浮揚策を取るかという、財政政策面における主導権争いが存在します。

 第二次安倍政権によるアベノミクスは、世の中にどんどんお金を回していこうというスタンスに基づいています。当然、国の借金は増えていく。そのため、財政規律を重視する派とは対立する構図があります。

『安倍vs麻生』
第二次安倍政権発足あたりから、国会での仲が良さそうなご両人が話題となってきた。だが今年に入ってからそんな2人の距離感が離れつつあることが、徐々に取り沙汰されている。

 そんなプライマリーバランスをめぐる政権内部の対立は、今年はじめから徐々に表面化していました。閣内で言えば、安倍首相の出身派閥と麻生財務相の派閥の対立です。麻生氏は財政規律を守るべしとする財務省を背負っていて、安倍政権の経済政策には必ずしも賛同していません。

 そんな財務省が実現を目指すのが、消費税の増税です。国の借金を減らすには歳出の削減、または歳入の増加、つまり増税が近道。しかし安倍首相は、自らの政権が経済政策によって支持されていることをわかっています。財務省が「いい加減、手をつけてほしい」とイライラしても、相容れることはできません。一方で増税は、国民からの反発が必至なので、人気のある政権でないと実現が困難です。そこで増税を目指す人々が、安倍政権の人気を利用しつつ、財政規律を守る方向に舵を切らせようと、画策してきたのではないか。

 こうした仮定を置いてみると、麻生派が安倍政権をコントロールするためには、どのような方法がもっとも効果的でしょうか。おそらくもっとも手っ取り早いのは、現政権中枢を支える人物を辞めさせ、自分たちの影響力が及ぶ人物を送り込み、すげ替えてしまうことでしょう。そこで標的となりそうなのが、菅義偉官房長官です。菅氏は、自民党内であえて味方をつくらないことで安倍首相への忠誠心を示しつつ、一方で官僚の人事権を掌握することで、自身の権力基盤を確保してきました。

 そんな菅氏に対して、加計学園問題での告発で目下、注目が集まる前川喜平氏など一部の官僚たちはやりづらさを感じていたはず。財務規律を守らせたい人たちは、そんな彼らを焚きつけ、菅氏と対立させる構図を作ろうとしたのかもしれない。一連のスキャンダルの背景には、そのような権力争いが作用している気がしてなりません。

 おそらく、今後の日本の政治は、安倍首相が残された政治余生で「何をしたいか」で、大きく変わってくると思います。憲法改正なのか、経済なのか、はたまた他のことなのか。仮に憲法改正だとすれば、麻生氏らはそれを手伝う代償として、財政規律を是正するよう重圧をかけるようにも思えます。ただ、財政規律を是正する方向に舵をきれば、日本経済へのダメージは大きそうです。そして経済がダメになれば、政権の支持率がガタ落ちになるのは、目に見えています。安倍首相としては、何を優先するか判断に迫られるはずですが、経済を犠牲にしてまで憲法改正に固執するならば、それは国民に対する裏切りに近い。改憲も日本にとっては重要ですが、今はその時ではない。個人的には、安倍首相が経済政策を優先すると信じたいです。

 話を都議選に戻しましょう。当時、政権内部で主導権争いがあったとして、都民はそれを知る由もなかったはずです。結果、「小池都知事は何かやってくれそうだ」というような表面的な情報から、都「ファ圧勝」という結果に終わりました。都民ファーストで当選した候補は、多くが初当選【1】。政策を評価されうる経歴も見当たりません。正直、有権者が何を持って投票したかという理由もいささか疑問が残るところです。

 ただし、専門家でもない有権者が、四六時中、政治に関心を持つことはおそらく不可能でしょう。重要なのは、それが日本の政治の現実であると認めることです。そして自分の生活に密接かつ重要に結びついた「これだけは譲れない」というテーマを絞って、候補者について良く調べてみるべきでしょう。育児なのか、介護なのか、雇用なのか。候補者の過去をさかのぼれば、その人物に一貫性があるか否か、知ることができるはずです。ただ支持した候補者が当選したとしても、政策が実現しない場合もあります。それでも、思いを託せる候補に愚直に投票し続ける。それが、有権者に唯一できることではないでしょうか。

(構成=河 鐘基)

【1】都民ファーストで当選した候補は、多くが初当選
今回、都民ファーストから出馬した候補者は、小池百合子知事が開いた政治塾「小池百合子政経塾 希望の塾 (小池塾)」の出身者が多数。同塾では、都議選対策講座なるものが開講されていた。今回の結果に対しては、さすがに多くの有権者が「いつか来た道」だと感じていそうだ。

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