――古い商店街や裏路地で出くわす、独特の形状をした味のある看板の文字。それらを“のらもじ”と呼んで、発見、分析、フォント化、そして販売するデザイナーたちがいる。彼らの本当の目的とは?
(写真/草野庸子)
明朝体やゴシック体といった既存のフォントではない、昭和な香り漂う文字が書かれた看板が街中にはある。コンピュータで隙なくデザインされた看板とは違い、手書きの素朴さがあり、雨風にも負けずに生き残った“野良の文字”。そこに目をつけたのが、「のらもじ発見プロジェクト」である。
その中心メンバーは、元広告代理店デザイナーの下浜臨太郎、吉本興業のタレント養成所出身の西村斉輝、山梨に移住して畑を営む若岡伸也というデザイナー3人。「のらもじ」は彼らの造語である。若岡が看板写真を収集したブログをきっかけに集まったという。
「感覚的に文字の形や佇まいが気になって見ると、戦後間もない時代に開業したお店のものが多い。経年で看板が傷むことで、いい具合に質感が出ているんです。書体は、看板屋さんがそのお店のためだけに手書きした一点モノが多く、そこから時代背景が読める点も面白い。『こういう文字にすればイメージがいい、売り上げが伸びる』というマーケティングと関係なくノリでデザインしている感じがあって、モノが少なく、作れば作るほど売れる時代のイケイケどんどん感が看板に出ている気がします。店名よりも『Panasonic』や『SHISEIDO』など扱っている商品のロゴのほうが大きく入っていたりするのも、この時代の特徴ですね」(下浜)