――出版不況や子どもが減ったと叫ばれているが、子どものための絵本はその煽りを受けていないという。しかし、絵本を作る出版社や業界について知っている人はどれだけいるのだろうか。実は寡占状態とも噂されている、そんな絵本業界の実態とはいかに?
最近は2足歩行もできる「はらぺこあおむし」。
物心ついた頃、いや正確には物心つく前から多くの人が触れる絵本。一方で、それを生み出す側の世界についてはあまり知られていない。
そんな絵本業界は実のところ、長きにわたって少数の出版社が市場をいわば独占してきた歴史があるという。絵本編集者のA氏は次のように述べる。
「絵本ならびに児童書は、不況といわれる出版業界の中でも、手堅いジャンル。というのも、毎年プレゼント需要が増す12月になると、定番の本が必ず一定数売れるからです。例えば『ノンタン』シリーズ(偕成社)の累計は3000万部、『ぐりとぐら』シリーズ(福音館書店)は2400万部といったように、昔からある絵本がいまだに売れ続けていることを見ればわかりますよね。つまり、この業界はド定番のロングセラーで利益を出せるので、新刊は吟味しながらじっくり作って出していけばいいという世界なんです」
ロングセラー絵本といえば、『いないいないばあ』(1967年・童心社)が622万部、シリーズ第一作『ぐりとぐら』(67年)は単体だけでも495万部、『はらぺこあおむし』(76年・偕成社)の389万部などであるが、多くの出版社がある中で100万部超えの定番商品のほとんどを童心社、福音館書店、偕成社などの数社が占めているという。そんな各社の内情を同じく絵本編集者のB氏はこう語る。
「福音館書店は、絵本出版大手の中でも別格。120人規模と出版社としては中規模ですが、前述の『ぐりとぐら』をはじめ、数々のロングセラー絵本があります。それに次ぐポジションにいるのが偕成社で、キャラクター展開も盛んな『ノンタン』や『はらぺこあおむし』がある限り、今後も安泰でしょう。童心社は、10年ほど前から文京区・千石の新社屋に移転し、最上階には紙芝居ホールまであって業界内でも羨ましがられています。また、ポプラ社はエンタメ色の強い版元で、福音館書店や偕成社に比べると、良い意味で格式高くなくておもちゃ屋さん的。ただ営業マンはなかなか押しが強いと評判で、『かいけつゾロリ』や『ズッコケ三人組』を仕入れる条件として、新しく売りたい絵本を書店に置かせるという話も」
出版不況と呼ばれる中、なんとも景気のいい話だ。また、書店や取次会社に対する営業という面でも、出版の世界における絵本業界は特殊な立場にあると児童書出版社の営業担当C氏は話す。