恐喝、根回し、ケタはずれのパワーゲーム……エージェント同士の殴り合いも!? ドンが牛耳った米国の芸能界

――日本では「テレビ局は、大手芸能事務所に頭が上がらない」などという話をよく聞くが、一方で米国の場合は「映画会社は、大手タレント・エージェントに頭が上がらない」という。この「エージェント」とは、一体何者なのか? そんな日本とは違う、米国の芸能界の構造を明らかにしつつ、そこに見え隠れする闇を探っていこう。

賛否あった『ゴースト・イン・ザ・シェル』のキャスティング。その裏にはエージェントの思惑があるのかもしれない。

 SMAP解散や能年玲奈(現・のん)の独立騒動を通じ、事務所とタレントのいびつな力関係が注目されている日本の芸能界だが、ショービジネスのメッカである米国・ハリウッドからはあまりそういった話が聞こえてこない。スキャンダルの度合いでいえば、こちらのほうが凄まじく、セックステープ流出や差別発言など、日本であれば「一発アウト」なトラブルを起こしても、たいしたペナルティもなく活動を継続するケースが見受けられる。この差はいったいなんなのだろうか。本稿では、日米の芸能構造を比較しつつ、米国にも暗部といえるものはあるのか探っていく。

 まず大前提として、日本の芸能界においては、フリーや個人で活動しているごく一部を除き、ほとんどのタレントが大なり小なり「芸能事務所」に所属し、管理されている。一方で米国ではタレント一人ひとりが独自の「エージェント」と契約するのが主流だ。

「現在の米国のエンタメ業界は100%透明性のある状態ですが、日本のそれはいまだに濁っているというか、裏が多すぎる」と語るのは、お茶の間でもおなじみのコメンテーター、デーブ・スペクター氏。日米双方の事情に精通している氏は、日本の業界について「芸能事務所や広告代理店による癒着がとにかく多すぎる。カネ、過剰接待、そしてバーターの横行により、実力のないタレントが視聴者に押しつけられている状態。キャスティングの8割は“ワケあり”だと思っていい」と強い口調で断じた。

 では、米国の業界が持つ透明性とは、どういうことか? 日米の契約関係に詳しい映画プロデューサーのヒロ・マスダ氏はこう語る。

「日本では、肖像権や芸名といったタレントの権利を事務所が管理する、一方的で不平等な契約が見受けられます。しかし海外のエージェントは、そういった雇用主のような存在ではありません。タレントは自分のキャリアに適したエージェントやマネージャーを、複数抱えているのが普通なんです。弁護士、広報などを選ぶのもタレント本人。自分のキャリアプランにフィットしなければ、当然タレントのほうからクビにすることもあります」

 自分でパーティを組み、レベルが上がるごとに仲間の質も上げていくという、RPGのようなキャリアを送るのが常のようだ。

 そもそも、エージェントの主な仕事内容は、出演枠の獲得やギャラの交渉など。報酬は、顧客であるタレントが獲得するギャラの最大で10%までを仲介料として受け取る。この10%という数字は、法律によって決められている。一方でマネージャーは、タレントのスケジュール管理や仕事の相談相手などにとどまる。

「エージェントは、マネージメント以外の仕事が法律で禁じられています。というのも、彼らがプロデューサーと結託、もしくは兼任となれば、タレントの報酬をいくらでも搾取できてしまう立場になるからです。また、日本の芸能事務所が大きな収入源にしている芸能学校や、その他サービスの斡旋も禁止です。雇用機会をコントロールできる立場でこれをやれば、タレントが二重、三重で搾取されてしまうからです」(同)

 日本の芸能界では昔から、金銭面で所属事務所と揉めるタレントが絶えずいる。それに比べると、米国の業界はタレントの利益を守る仕組みが出来上がっているといえよう。しかし、それゆえ仕事の質やギャラの金額はすべてエージェントの腕一本にかかっている。アカデミー賞を受賞した俳優が、スタッフの名前を次々に挙げ感謝の言葉を述べるのは、そんな背景があるからなのだ。

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