【エド・シーラン】エミネムに救われたホビットの叫びが胸を打つ!

『÷』

エド・シーラン(販売元:ワーナーミュージック)

UKでのリリース週に70万枚近く売れるとともに、全曲がUKシングル・チャートにランク入りした怪物アルバム(ストリーミング再生が凄まじかったため)。先行シングル「Shape of You」は、TLCの「No Scrubs」を引用。続くシングル「Galway Girl」は、かき鳴らすギターとヒップホップなビートが合体した逸品、エリゾンド制作。


 死地に赴く若きドワーフのつもりで歌いました。

 自曲についてそう語った青年は、しかし、ドワーフよりホビットに見える。なんにせよ、小柄な体格といい、やや幅広な顔といい、「中つ国の住人」色が濃厚だ。

 ところが、「ビルボ」「フロド」「ギムリ」といったトールキン直系な名前ではなく、彼の名は「エドワード」だ。人間と考えると、ステレオタイプなアイリッシュの外見ともいえる……特にその赤毛は。おまけに姓も典型的なアイルランド名。だが、その青年が、実はイングランド生まれ、イングランド育ちとは。当方の予想はまたも裏切られるのだった……。

 今回の主役、「エド」の愛称で知られるエドワード・クリストファー・シーランのことである。

 私を打ちのめしたのは、エド・シーランが歌う映画『ホビット 竜に奪われた王国』の主題歌「I See Fire」だ。

 ほとばしるトールキン魂は、身も心もホビット化したかのごとし! それもそのはずで、幼き日のエドが父に初めて読んでもらった本も、自分自身で初めて読破した本も、共に『ホビットの冒険』。「生まれて以来、ずっと愛読してます」と言い切るトールキン信奉者なのだ。

 しかし、トールキン魂だけなら、私はここまで入れ込まない。デビュー・アルバム『+』が“白いブルーノ・マーズ”と評されたことからもわかる通り、エド・シーラン=「R&Bやヒップホップを自然に呼吸してきた、新世代の白人」と思えることが大きな要因だ。

「I See Fire」は、『ホビット』の世界に寄り添う曲調、生ギターがポロロンと響くフォーク・バラードだ。だが、要所要所でリズムが際立つ上に、R&Bリスナー(私)の琴線に触れる歌唱が、なによりもいい。

 いわば、「メタリカ meets フランキー・J」。バラード「Nothing Else Matters」あたりを演奏するときのメタリカに通じるヨーロッパ直系の叙情性と、歌そのものから香り立つR&B/ヒップホップ的センス、その類い稀なミクスチャーなサウンドがエド・シーランなのではないか。

 このアーティスト性はどう育まれたのだろう?

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