【社会学者・作曲家/森山至貴】ジェンダー論から見るりゅうちぇる――ぺことの結婚を“一人前”と評価することは、同性愛者への偏見の裏返しである

――テレビで見ない日はないと言っていい、大人気タレントのりゅうちぇる。なぜ、テレビ業界や視聴者にこれほどまでに受け入れられるようになったのか? あるいは、そのジェンダーレスなファッションと話し方は、日本社会に潜む“何か”を表象しているのか? この時代の寵児の本質を、複数の視点から解明していきたい。

森山至貴(もりやま・のりたか)

1982年、神奈川県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科を経て、早稲田大学文学学術院専任教師。専門は社会学、クィア・スタディーズ。著書に『LGBTを読みとく――クィア・スタディーズ入門』(ちくま新書)などがある。


“女性”となったKABA.ちゃんと笑い合うりゅうちぇる。

 りゅうちぇるさんは、いわゆるオネエ・ブームの流れから出てきたタレントさんという位置づけではありますが、最初からパートナーのぺこさんと一緒にメディアに出てきましたよね。「異性愛者である」と公言した上でメディアに登場したという点では、新しく興味深い現象だと思います。

 ここで着目すべきは、オネエ・タレントがひとくくりに同じカテゴリに入れられてキワモノ扱いされていたとしても、作り手の意図通りに視聴者が見るわけではないということです。

 例えば、1993年に放送された男性同性愛者を題材にしたドラマ『同窓会』(日本テレビ系)では、男性同性愛が否定的に扱われましたが、当時『同窓会』が放送される夜になると新宿2丁目からゲイがいなくなる、と言われました。それは、みんな家でドラマを見ていたから。つまり、ドラマ自体はゲイに好意的ではなかったけれど、ゲイの人たち自身が盛り上がっていたんです。同様に、ゲイのタレントがからかわれつつもメディアにでることで、一般のゲイがカミングアウトしやすい状況にもなり得るわけです、だから、オネエ・ブームそのものが良いか悪いかではなく、ブームを契機に誰が救われて誰が傷つくのかを冷静に見るべきでしょう。

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