【神保哲生×宮台真司×国沢光宏】大排気量への課税――アメ車が日本で売れない理由

――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

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[今月のゲスト]
国沢光宏[モータージャーナリスト]

「アメリカでは日本車が山ほど走っているのに、東京でシボレーを見たことがない」。選挙当初から日本に対し、こう発言を繰り返してきたトランプ大統領が、1月に行われた財界人との会合で、改めて日本の自動車市場の閉鎖性をやり玉に挙げた。一見、いつもの暴言かに思えるが、日本の自動車市場に問題はないのだろうか?

神保 今回は「自動車」を取り上げます。宮台さんも好きなテーマですが、今の若い人たちはあまり車には興味がないという話も聞きます。

宮台 1990年代に車離れが進みます。世紀の変わり目に東京モーターショーで「なぜ若い世代は車に乗らないか」というスピーチをしたけど(笑)その頃には誰の目にも「車離れ」が明らかでした。それより10年近く前の90年、科研費で大学生対象の統計調査をした段階ですでに、世間で「オタク」と呼ばれる「対人関係が不得意で、アニメやマンガに対してマニアックな層」が、ファッションとグルメと車に無関心だとわかっていました。

神保 今回はゲストにモータージャーナリストの国沢光宏さんをお招きしました。米トランプ大統領がアメリカの財界人たちの前で「アメリカでは日本車があれだけ走っているのに、東京でシボレーを見たことがない」と日本を名指しで批判し、久しぶりに日米間で自動車が議題に上がるかもしれない状況ですが、国沢さんはどうご覧になっていますか?

国沢 大枠からお話しすると、日本の自動車産業は国際収支の大半の黒字を稼ぐほど巨大なものです。アメリカでは80年代からずっと叩かれ続けてきましたが、そのことで、日本の工場はアメリカに作られたし、現地調達率も高くなった。今ではトヨタもホンダも「アメリカの会社」――現地生産の拡大によりアメリカの工業生産を支えていると言ってもいいような状況なので、叩かれてもあまり怖くない、というのが現状です。

神保 アメリカに進出している日本の自動車メーカーは、かなりの比率で現地生産しており、向こうで人も雇っている。その意味では、本来は日本の自動車メーカーがアメリカ人の雇用を奪っているという話は当たらない。しかし、なぜかアメリカ車が日本でまったく売れないために、両国の間で貿易不均衡が生じているように見えてしまう。

 では、ここで経済産業省がまとめた2014年のアメリカ市場の自動車販売数を見てみると、1年間に売られた車の台数が約1680万台。その内訳は「GMが18%、フォードが15%、クライスラーが13%に対して、日本勢はトヨタが14%、ホンダが9%、日産8%、その他の日系メーカーが6%。他の外国車ではドイツのダイムラー(ベンツ)が4%、BMWが2%、フォルクスワーゲンが2%、韓国の現代/起亜が8%」となっています。これは現地生産分と輸入分を合わせたものですが、日本ブランドの車が、ざっと見ても30%以上のシェアを持っていることになります。

 一方で、同じく14年の日本市場の自動車販売台数を見てみると、計約556万台のうち、アメリカ車は0・2~0・3%のシェアしか持っていない。「輸入車でも、ドイツ車は売れているじゃないか」と言う人がいますが、BMWが4%、ダイムラー(ベンツ)が2%、フォルクスワーゲンが2%と、実はドイツ車も大して売れていないことがわかります。都心を走っていると外国車が結構目につきますが、データを見る限り、日本では輸入車はほとんど売れていないといっても過言ではない状況があるようです。

国沢 日本では、輸入車は基本的にはあまり売れていません。

神保 車種別の販売台数を見ると、日本では外車トップのゴルフ(フォルクスワーゲン)がだいたい全体の30位くらい。これに対して、アメリカの自動車販売数トップ10はフォードのFシリーズ、シボレーのシルバラード、ダッジのラムと、ピックアップトラック(大型以外のトラック)がトップ3を独占し、その後にトヨタのカムリとカローラ、ホンダのシビック、CR-Vが続きます。更にトヨタのRAV4、ホンダ・アコード、日産のローグ(日本名X-TRAIL)と、トップ3はピックアップが占めているものの、トップ10には日本車が7車も入るなど、確かに日本車はよく売れている。乗用車に絞るとトヨタのカムリとカローラ、ホンダ・シビックとアコード、日産のアルティマ(日本名ティアナ)とトップ5を日本車が独占し、フォードのフュージョンとシボレーのマリブがようやく6位、7位に入る。そして日産のセントラ(日本名シルフィ)、現代のエラントラ、ソナタと続くのが乗用車部門のトップ10になります。乗用車部門では日本車がトップ10のうちトップ5を含む6車種と圧倒的なシェアを誇っています。

国沢 データを見てもわかる通り、日本で売れる/売れないという以前に、本国でもアメリカ車の乗用車は売れていないんです。ランキングに名前が出ているフュージョンやマリブは、乗用車といっても比較的大きい車で、日本でいうカローラやシビックのクラスになると、壊滅的に売れていない。アメリカ車は高くて大きいものは優秀だが、安くて小さい車種については、当のアメリカ人が認めるくらいダメなんだ、ということをまず認識していただきたいと思います。

神保 では、欧州市場ではどうなのかも見てみましょう。14年の数字で、EU圏内で売られた計約1372万台の自動車の内訳は、トップのフォルクスワーゲンが23%、続いてPSA(プジョー・シトロエン)12%、ルノー10%が2位、3位に入り、アメリカ車のフォードが8%で4位、GMが7%で5位、FCA(フィアット・クライスラー)が6%で6位と続きます。日本で人気のあるBMWとダイムラー(ベンツ)は、7位、8位でシェアは4~5%くらい。日系では日産、トヨタがいずれも4%程度にとどまっていて、韓国の現代/起亜5%よりも少ないという状況です。EU圏内ではやはりヨーロッパのメーカーが強いですが、アメリカのメーカーもそれなりのシェアを獲得できているように見えます。

国沢 この「GM」は、ドイツのオペルで開発&生産したものです。フォードもアメリカで売っているものとはまったく違い、ヨーロッパフォードの車なので、この中に、いわゆるアメリカ車はありません。ヨーロッパでもアメ車は通用していない。

宮台 アメリカ人の車に対する嗜好が昔と変わらないことがわかりました。ヨーロッパや日本と違って小さい車に乗りたくない人が多いから、日本やヨーロッパで車を本気で売ろうとすれば輸出用の車を別に開発せねばならず、開発コストがかさんじゃう。文化的問題も大きいんですね。

神保 アメリカ側に問題があることは、よくわかりました。しかし、日本もまったくシロではないことに、今回のトランプ発言の痛いところがあるようです。実際はアメリカの問題なのに、日本側にも弱みがあると、痛くない腹を探られかねません。

 その「弱み」の筆頭が、排気量が上がるにつれて税金が跳ね上がる、自動車税の「懲罰的課税」というものです。大排気量にかかる自動車税(エコカー減税適用前)は、1L以下は2万9500円、1L超~1・5L以下は3万4500円、1・5L超~2L以下は3万9500円と進み、4L超~4・5L以下は7万6500円、4・5L超~6L以下は8万8000円、6L超は11万1000円という数字になっています。燃費や自動車の重量に対して懲罰的な税金が課されるのはわかりますが、単純に排気量で税金がこんなに変わってくることは知りませんでした。

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