【6代目日ペンの美子ちゃん・服部昇大先生】パロディが公式に!気鋭のマンガ家“6代目爆誕”秘話!!!

――2017年、約45年の歴史を持つ「日ペンの美子ちゃん」に大変革が起きた。「日ペン……? 美子ちゃん?」――記憶の片隅に残る、あのペン習字訴求マンガに、いったい何が!?

日ペンの美子ちゃん【公式】ツイッター〈@nippen_mikochan

 2014年4月号から本誌にて「流行解明3分間」を連載していたマンガ家・服部昇大先生。本業では『魔法の料理 かおすキッチン』をはじめ、『テラフォーマーズ』のスピンオフ作品『今日のテラフォーマーズはお休みです。』(共に集英社)といった人気マンガを手がけている氏が、今年1月「日ペンの美子ちゃん」6代目作者に就任したことは、ご存じだろうか? 「美子ちゃん……? ああ、少女マンガ雑誌に掲載されていた広告マンガか」と記憶の片隅に残っている本誌読者も多いことだろう。日ペンの美子ちゃんは、学文社が実施しているボールペン習字通信講座の広告マンガとして、1972年に誕生(ちなみに彼女は設定上、永遠の17歳)。これまで歴代5人のマンガ家たちによって描き続けられてきたが、彼らが学文社からの由緒正しき依頼を受けていたのに対し、服部先生が就任した背景は少々異なる。

 そもそも事の発端となったのは、服部先生が同人誌で描いた「日ポン語ラップの美ー子(びーこ)ちゃん」という、“美子ちゃんオマージュ作品”だ。同作は15年、日本語ラップ・ブームの波を受けて、「その聴き方、間違ってるわ!」「もっと文化を掘り下げなさい!」などと、日本語ラップが間違った解釈で世に浸透せぬよう、正しい聴き方を指南するマンガとしてカルト的な人気を誇った。「なぜ、美子ちゃんを主役にサンプリングしたのか?」――それは、本家・美子ちゃんがペン習字講座教育の広告マンガでありながら、「字が汚いと、人格すら疑われちゃう!」というド直球な思考のもと「是正する」スタイルでリンクした点。また、服部先生自身が、熱狂的なまでの日本語ラップ・リスナーであることも巧みに作用したからである。

「少女マンガ雑誌に掲載されていた広告マンガという印象に加えて、あの手この手を使ってペン字を習わせようとする強引さも記憶にすり込まれていました。単行本も出ず、アニメ化もされていないのに、その記憶だけが残っていて、日本語ラップを描くマンガのアイデアを考えたときに、そんな美子ちゃんの強引で、ヒップホップ精神に通じるマインドが適任だと思ったんです」

 そんな半ば強引な親和性の高さが功を奏し、「美子ちゃん、懐かしい」と思いながら美ー子ちゃんを読む層がいれば、まったくの新しいキャラとして受け入れた若い世代も獲得。同人誌の販売も扱う、とあるレコードショップの売れ筋ランキングでは、ジャネット・ジャクソンの新作に次ぐチャートインを果たすなど、美ー子ちゃん人気はたちまち加速度を増す。

 しかし、「出る杭は打たれる」のが世の常。美子ちゃんの著作権を持つ学文社が、美ー子ちゃんの存在に気づくのだ。美子ちゃんと共に年を重ねてきた株式会社学文社の美子ちゃん担当、営業部課長・浅川貴文氏に話を聞く。

「実は広告マンガとしての美子ちゃんは99年に撤退、約10年前から美子ちゃん自体に動きもなかったんですが、昨年5月に再始動プロジェクトをスタートさせました。コンセプトは“懐かしくも、新しい美子ちゃん”で、当初はプロアマ問わず、6代目の描き手を公募する案で動いていました。そんなとき、社員のひとりが、インターネットで『日ポン語ラップの美ー子ちゃん』を発見したんです」

 学文社という、社名からして頭がお堅い社員の皆々様ばかりが勤務していそうな企業は、有無を言わさず「著作権侵害で法的措置を取る!」となりそうなところだが、浅川氏は「このマンガ家の方は、どういった意図で美子ちゃんを扱おうとしたのか?」という疑問を解消すべく、服部先生のブログに記載されていたメールアドレスから連絡を試みたという。服部先生は、そのメールの件名を見て、「終わった……。僕は訴えられて、多額の損害賠償により、この家のすべてが差し押さえに……」と頭が真っ白になったそうだが、文面を読み進めるにしたがい、前向きなヴァイブスが感じ取れたと話す。

「メールは無視されると思っていたのですが、服部先生から丁寧なお返事をいただき、『この人は、金儲けだけを考える悪人ではない』と判断しました。美子ちゃん起用の理由もわかり、さらに美子ちゃんに対するリスペクトも感じられたので、6代目は公募ではなく、服部先生にお願いしようという気持ちが固まりました。社内上層部には、美ー子ちゃんが営利目的で販売されていたことからネガティブに受け止める者もいましたが、私はそれ以上に、服部先生となら新しい美子ちゃんを生み出せるのではないかと思い、正式に依頼いたしました」(浅川氏)

 パロディが公式作品に――。昨今、こうした事例はめずらしくなくなった。例えば、手塚治虫の不朽の名作「ブラック・ジャック」のパロディをツイッターなどで発表していたマンガ家・つのがい氏の「#こんなブラック・ジャックはイヤだ」(小学館)も、手塚氏の実娘である手塚るみ子氏に認められ、単行本まで発売。しかし、すべてのパロディが公式に起用されるチャンスがあるかといったら、話は別。美子ちゃんにもブラック・ジャックにも共通するのは、「オリジナルへの敬意」だ。

 服部先生のマンガは「言葉選びのセンスが巧み」という評価に加え、「現代的な画力の高さではなく、昭和の良き時代を想起させる絵のタッチが、懐かしくも斬新」などの高い評価も得ている。懐かしくも斬新――まさに、これが美子ちゃんと美ー子ちゃん、学文社と服部昇大が結びつく運命的なファクターとなったのだ。

シンペイちゃんに対する愛ゆえ、今では考えられない発禁用語すらマンガの中で口走ってしまう、この初代美子ちゃんのすがすがしい表情!

「正式なオファーを受け、学文社に行って歴代のマンガ家先生たちが描いてきた美子ちゃんを丹念に読みました。するとどうでしょう、もうパンチラインの雨あられ。例えば、美子ちゃんが憧れのタレントにサインをしてもらうんですが、『まあ!! なにこのへたくそな字 げんめつね』とか、デート相手に『あんたの字ってヘビがのたくってるみたいにへたくそなのね』とか、字が汚い人をこてんぱんにこき下ろしてるんです。ペン字を習わせる強引さどころか、明確な理由はあれど、その人の人格を否定するようなセリフがたくさんあって、その辛辣さはサイゾーに近いものを感じたくらいです」

 本誌がこうして記事にしたのも、「服部先生、6代目就任おめでとう記念」だけではない。そうした美子ちゃんのタブーに挑む歯に衣着せぬ物言いが、本誌の精神ともリンクしたから。6代目就任以降、週1ペースでツイッターに新作をアップし、「4月までに5000人くらいのフォロワーを獲得できれば」と話していた美子ちゃん(の中の人)だったが、アカウント開設から1週間も満たぬうちに目標の5000人を突破し、現在は約1万3000人のフォロワーが、美子ちゃんの新作を待ち望む。ペン字学習だけに、ピコ太郎の「ペンパイナッポーアッポーペン」をサンプリングして「誰がミコ太郎よ~!」と言い放ったり、ブラック企業に勤めるサラリーマンを題材にし、「社畜ね! でも、こんな下手な字の辞表じゃ辞められないんじゃないかしら?」といった暴言も放つ。これらのアイデアは、すべて服部先生が考案し、学文社の了承を得て描いているという。「たまにNGも出ます」と苦笑する服部先生だが、前出の浅川氏は「強引に日ペンを勧めるマンガとしてスタートしましたが、今後はまったく違う場所に登場させたり、他企業とコラボしたり、上層部から叱られない程度に、いろいろな試みに挑戦して、美子ちゃんを成長させたい」と続ける。

 今号が発売される頃には、出家騒動に揺れる千眼美子をテーマに、「よぉ~し、ペン字降霊術よ! ……こんにちわ、日ペン美子です」といった作品がアップされているかもしれない。サイゾーは、そんなチャレンジ精神を忘れぬ、日ペンの美子ちゃんを応援していきます!

服部昇大(はっとり・しょうた)
マンガ家/照英ウォッチャー/プリキュアヲタ/日本語ラップヲタ。本業はマンガ家でありながら、あらゆる分野で活躍するハイパーマルチ・アーティスト。〈服部昇大先生〉と書かれると「はっとり・のぼる・だいせんせい」と勘違いされることが多いという。

歴代【美子ちゃん図鑑】

錚々たる顔ぶれが描いてきた“ザ・少女マンガタッチ”の美子ちゃんたち

【初代】矢吹れい子先生
1972~1984年


【2代目】森里真美先生
1984年


【3代目】まつもとみな先生
1984~1987年


【4代目】ひろかずみ先生
1988~1999年


【5代目】梅村ひろみ先生
2007~2016年


日本語ラップに限らず、少女マンガも愛し、絵のタッチも“懐かしくも新しい少女マンガ”的な服部先生の6代目就任は、もはや運命。今後、6代目がどこまで攻めるか、期待しましょう。

〈美子ちゃん初の原画展開催!〉6人の作家によって描き続けられてきた美子ちゃんの秘蔵原画が展示される原画展の開催が決定。●日程:5月16日(火)~30日(火)●時間:12:00~20:00●場所:墓場の画廊 ●http://hakaba-gallery.jp ※詳細は美子ちゃんツイッターで!


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