リアル『げんしけん』かそれとも“前立腺アクメキメちゃうおお♡”のエロ全開か? 漫画研究部の内部とふたなりマニアの部員宅に迫る!

――前号の月刊サイゾー2月号では、マンガ特集をお届けした。そこではメジャー誌の存亡をかけた戦略をはじめ、話題作を中心にリポートしたが、現在、マンガ業界でその存在を無視できない“大学の漫画研究会”は、いかなる活動をしているのだろうか?

これぞ漫研の景色

 オタク系サークルの代表である「漫画研究部」。みなさんはその存在に対してどのような印象をお持ちだろうか? マンガ家の卵が集まるクリエイティブ集団、はたまた終始メガネが指紋で曇っているインドア集団、など色々あるだろう。個人的な話にはなるが、現在大学生である筆者は、マンガに対してあまり興味もなければ、そこまでの知識もない。せいぜいコンビニエンスストアのコミックス廉価版コーナーに月一並ぶ『こち亀』を嗜む程度だ。だが、自身が通う大学にも漫画研究部はある。正直「アダルト系同人誌を制作すべく、ド変態な女の子が日夜あれこれ妄想しながらドエロでハードなマンガを書き連ねている」という印象しかないのだ。

 そんなさまざまなエロが溢れ返る世界に飛び込めば、新たなる性癖を開拓できるのではないか。ついでにちょっとくらいイイ事もあるんじゃないかと甘酸っぱい気持ちを持ちつつ、筆者はさらなる性の高みを目指し――サイゾー読者諸兄には伺い知ることができないであろう――とある大学の漫画研究部へ向かったのである。

 大学構内を歩くこと10分、たどり着いた狭い部室には9名の女子部員と1名の男子部員の姿があった。中には、それこそマンガのヒロインのような美少女もおり、彼に関しては羨ましい限りである。「貴重な男の子が増えた!」と喜んでくれたメガネがチャーミングな部長さんが「良かったら読んでください」と渡してくれた部内誌のページをめくると、そこにはさりげないエロさなど皆無なセリフ。

「んにょおおおおッ、イグッ、大学中央図書館入り口前で前立腺アクメキメちゃうおおお」。

 画は良い。一緒に見ている部長さんの存在も相まって性感を刺激してくれる。

 部内誌の内容を見る限りでは筆者の期待は膨らむばかりだが実際の所はどうなのだろう? まずは活動内容等について、部員さん達にお聞きした。

――普段は具体的にどのような活動をされていますか?

部員(男) 部としては新入生向け・文化祭向けに年間2冊(計200ページ程)の部内誌を作っています。外に向けて販売などはしていないので、あくまで部内のみで見られるモノになります。コミケに出店したりもするのですがほとんど稼ぎにはならないですね、というより赤字です……。アレは儲けというよりも発信することが目的なので。

――コミケ以外に外に向けて発信することは? 出版社に持ち込むとか。

部員(男) そういうことは部としてやっていないですね。出来たらいいなっていう考えはあるんですけどね……。なので活動としては部内誌を年間2冊作る、これが主軸です。あとは週に2回部室に集まってマンガの話をしたり趣味としてマンガを描いたり、楽しくやっている感じです。

 エッチなマンガは溢れているもののどうもクリエイティブ集団という感じではなさそうだ。漫画研究部の名門と呼ばれる早稲田大学、明治大学などのHP等を見てみると外部からの仕事を受注していたり、出版社発行の雑誌に作品が掲載されていたりと、精力的に活動を行っている。後にプロとして食っていく人も少なくないだろう。しかしそれよりも気になるのはさっきから部員(男)ばかりが喋っているということだ。

――では部長さんにお聞きしますが、『げんしけん』(講談社)のようなリア充とは一味違う、高坂と咲のオタクの男に女の子が振り回されるようなカップルや田中と大野のようにコスプレイヤー同士の恋といった、オタクたちの恋愛のようなラブコメが実際に部内であったりは?

部長さん(女) 過去には何人かいましたが、今はないです。恋人はいても、それが部員の間であるということはありませんが……?

 そのサバサバした感じ、悪くはない。しかし、どうもなんだか物足りない。色恋沙汰もなければ熱い話も聞けない。部室を見回してみてもマンガを描いているのは1人だけで、やはり雑談が目立つ。憲法の本を読んでいる女の子が1人いたが、おそらくただのテスト勉強だ。『改憲反対! 奥田くんが行く!』的な硬派かつユーモアに溢れたマンガを描く様相も感じられない。

 さて、どうしたものかと迷っている矢先、颯爽と男性が現れた。彼こそが“ふたなり”専門同人作家として活躍する「あおむし」さんだ。大学院に通いながら、「焼きたてジャマイカ」などの名義でふたなり系同人誌を制作、頒布している作家さんである(彼の作品は主に「メロンブックス」や「とらのあな」の書棚に並び同書店サイト上でも入手ができる)。この少し消化不良(筆者視点)な漫画研究部にもマンガだけで食っている“であろう”人がしっかりといたのだ。ちなみに“ふたなり”とは、主に2次元の世界に登場する両性具有の女の子。要はペニスも付いている女の子である。

 実をいうと私筆者、ここ最近流行りの男の娘・女装子でも可愛ければそれはそれで……と思い始めている次第である。ホリエモンとカリスマ女装男子でもある大島薫ちゃんの(なぜよりによってホリエモンなんだ……)スキャンダルが出た際は悔しさで奥歯がガタガタ言っていたほどだ。そんな経緯もあり、ふたなりとは若干ジャンルは違うもののあおむしさんと意気投合。早速彼の自宅兼アトリエにお邪魔してインタビューを開始した。

 筆者自身ふたなりのマンガ作品に対してはそれなりの嗜みがあるわけではあるが、このジャンルに対して大きな疑問点が2つあるのだ。まずはド直球をぶつけてみたい。

――ふたなり作品を見ているとタマが付いているものとないものがありますよね?

あおむし あれはですね、結構謎が多いんだけど。生物学的に男性器と女性器の発生の過程で考えると女性器の大陰唇は男性器でいうと睾丸の袋だから、そこが重複して存在するっていうのはおかしいよねっていう。ボクはそういう理由でタマは描かないようにしているんだよね。それと、ふたなりは両性具有だから男性器、女性器の両方を描かないといけない。タマがあったら女性器が隠れちゃうんだよね。それに女性器に着目して細かく描写すること自体が楽しい。最近ご無沙汰だけどね。あ、描いていないって意味で(笑)。

 ふたなり好きをさらに分類するとタマ好きという人達もいるらしい。単純に性感帯が1つ増えることでエロさが増すということはあるかもしれない。亀頭への刺激、女性器の刺激に加えてタマまで感じていたら「欲張りだな、この淫乱め……!」とジェラシーを感じるのも納得できる。

――これはエロマンガの登場キャラクター全体にもいえることかもしれませんが、作中のふたなりキャラが総じて性欲過剰なのはどうしてですか?

あおむし まず第一に、ふたなりっていうのは非現実のものだから、性欲も非現実のものの方がマッチしているよねって話がある。それと、性器が2つ付いているんですよ。ということは性欲も2倍ですよっていう、あるいはそれ以上に。

 元ネタとなるマンガの中では普通の女の子だったキャラが、同人作品ではペニスを生やされて淫乱になる。確かに自分の好きなキャラがそうなっていたら興奮する読者も多いだろう。

 性欲が2倍というのもなんとなくではあるが納得はできる。もし自分に女性器もあったら……と考えてみて欲しい。2箇所同時に責められでもしたら失神してしまいそうだ。

あおむしさんがペニスを描くワケ

――では、ふたなり同人作家になった理由を教えてください。

あおむし 中学生の時に見ていた「赤玉屋本舗」というサイトがあって、子ども向けアニメのエロ画像やエロフラッシュを作りまくってるところで。そこで同人作品を見るようになったんだけど、サイトで最初に興奮したのがふたなりではなく触手責めからなんだよね。

――触手責めって、人間の女の子が未知の生物から伸びた軟体手足のようなものに犯されるってヤツですね。

あおむし ふたなりに関しては中3から高1にかけて。その当時“女の子だって射精してもいいじゃない!”という感じでふたなりキャラが登場するアダルトゲームがありまして。ま、そうだね! 空想の世界だし! と思いながらやってたらいつの間にかふたなりマニアに……。ちょうど「ゆるゆり」(一迅社)を愛読していたこともあってその頃から女の子だけの世界が好きだったんだよね。

――「ゆるゆり」って登場人物のほとんどが女子中学生っていうロリコンマンガですよね?

あおむし 僕はあまりそうは感じないけど一般的にはそう思われているかもね。実際に性描写があるわけではないけれど、ゆるゆりファンの中にはロリコンも多いと思う。

 で、本格的に同人作品を書き始めたのは大学2年の時。その頃は『ガールズ&パンツァー』(メディアファクトリー)というアニメにドハマりしていて、そこに出てくる女の子がたくさん登場するストーリーを書きたいと思ったんだけど、正直男女の恋愛というものが経験不足でまったくわからなくて……。

 女の子だけが登場する百合的なエロマンガを描こうとしたけど性描写のバリエーションに限界があった。その状況を打破するためにペニスを付けてみたんだよね。そしたらしっくり来たというか。なので、先ほどふたなりマニアと言ったけど、もしかすると僕はペニスに興奮しているわけではないかもしれない。あくまで読者にとってエロい同人誌を描くためにふたなりというアイコンを用いているという具合かな。

――(経験不足はさておいて)エロいと感じていないにも関わらずペニスを描いていると。

あおむし 男性読者はペニスの快感を知っているわけだから、登場人物の心理状態や興奮度をリアルに捉えることができるんだよね。というかボクの作品を読んでいるのは男ばっかりなので(笑)。ふたなりはボクと読者そして登場キャラと読者のシンクロ率を上げることができる。好きな女の子と射精の快感を共有するなんて現実世界じゃできないしね。あとは性行為に及ぶ前の恋愛の部分だとか、駆け引きや嫉妬みたいな繊細な感情とか、心理描写で読者の心をキュンとさせることが僕は苦手だから、自分の作品のどの部分にエロを感じて欲しいかって考えた時にストーリーではなくやっぱり性描写で勝負かなと。

――先ほど触手責めというワードが出ましたがあのグロテスクさのどこにエロが?

あおむし いや、触手にはエロ要素がてんこもりなんですよ! 大きく分けると3つあって……

 と触手の話になると一気に熱が入ったあおむしさん。そのエロさをわかりやすくまとめると、

■表面のぬるぬる
粘膜で覆われている触手が絡むと、対象もヌルヌルになる。ローションまみれの女性を想像して欲しい。触手が体の表面を這っているだけでもエロい。

■先端形状と機能の豊富さ
例えばイボまみれの触手や、返しが鋭い触手など。SM的な要素も加わりバイオレンスなエロさが加わる。また、本質的に紐なので緊縛プレイもできる。

■いくらでも延ばせるし太くできる
女の子の体内に入った際、太すぎてお腹がボコッと膨れたり、お尻の穴から入って口から出るなど。人間の男性器では不可能な長さと太さを実現できる。

 一部「それはエロいのか?」とノーマルな方には理解できない話もあるが、触手責めのエロさにも色々と種類があることがおわかり頂けただろう。どうしても触手と聞くとその気持ち悪さが勝ってしまう方も多いはず。しかし緊縛プレイやローションプレイの一環として捉えれば確かにそこにエロさを見出すことも出来そうである。

漫画研究部の存在意義とは

 結果からすると男2人でペニスの話をしただけで期待していたイイ事にはありつけなかったわけではあるが、彼のおかげで性の高みには近づくことができたかもしれない。

――マンガ家になった今でもなぜ漫画研究部に属しているのか。

あおむし 僕としては学校を卒業するまでは漫研に居座って大学生たちとコンタクトを取り続けるつもり。若い世代のブームや流れを知ることができる貴重な空間です。

 この漫画研究部内ではおそらく勝ち組に入るであろうあおむしさん。書店に並ぶ彼の本を見ると、個人的な意見ではあるが同じ学生として「やるな」と関心してしまう。しかし部内では彼に対する嫉妬もなければこれといって尊敬しているという雰囲気もない。それはあくまでも研究部、というスタンスだからこそ流れる空気である。

 若干拍子抜けするような場面もあったが、確かに皆が出版社主催の新人賞を目指しガツガツとペンを走らせ、ライバルでもある研究部員同士で牽制し合っていたら、「何のために集まっているんですか? トキワ荘じゃあるまいし」と勘ぐざるを得ない。

 あおむしさんによるとその答えは「マンガ家になるならひとりでできるし、マンガ家に弟子入りする人が多い。漫画研究部はマンガ家志望が集まる場所ではなくてマンガが好きな人の居場所として機能しているんです」とのコト。かくいう彼も、その筆力はプロ並みとは思えるが、マンガ家を生業にするつもりはないという。

 人間なら誰しもが持っているだろう――表現者ならなおさら――自己顕示欲やプライド。創作を伴う文化系オタクサークルでは、その傾向はより一層強そうだが、そんなモノを感じさせることのないユルさこそが、漫画研究部という組織の大きな特徴……ということだろうか。

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