【『紙の月』】 不倫女は“男に飢えた下半身のユルいアバズレ”なのか?

――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。

 振り返れば、2016年は猫も杓子も不倫の年だった。ゲスの極み乙女。・川谷絵音×ベッキーを皮切りに、桂文枝、乙武洋匡、宮崎謙介元衆院議員、ファンキー加藤、石井竜也、三遊亭円楽、荻上チキ、中村橋之助、浦沢直樹(疑惑も含む)。

 というわけで、ちょうどよい機会なので今回は女性が不倫に至る心境を考察してみたい。それに持ってこいのテキストが、角田光代の原作を宮沢りえ主演で映画化した『紙の月』だ。

 宮沢が演じるのは、契約社員として銀行の外回り業務を担当するアラフォー既婚女性・梅澤梨花、子供なし。自転車で地域の個人顧客を回り、金融商品を勧めるオバちゃんだ。そんな梨花が、顧客の孫である大学生の光太(池松壮亮)と不倫に至る。しかも梨花は光太のために、計画的かつ長期にわたって銀行の金を横領するのだ。

 一見して地味で真面目な女性として描かれている梨花が不倫と犯罪に至った経緯は、2ステップある。まずはステップ1、自分が夫に「選ばれていない」不満だ。梨花の夫・正文(田辺誠一)は出世コースに乗っているとおぼしきサラリーマンで、浮気やDVの気はない。家庭内は至って平穏。夫婦関係に綻びはない、ように見える。

 しかし正文は、努力して試験に合格し、パートから契約社員に昇格した梨花を、まったく評価していない。梨花は契約社員になった記念に夫婦ペアの腕時計(各3万数千円)を買い、喜々として正文に報告する。だが正文は後日、海外出張土産として、その何倍も高いカルティエの腕時計を梨花にさらっとプレゼントするのだ。無論、梨花の自尊心はズタズタ。大奮発して買った自分ヘの勲章を、一瞬で矮小化されたのだから。

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2024.11.21 UP DATE

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