――本特集では、現実社会における“アスペルガー・ブーム”の功罪を読み解いてきた。そうした状況下で、現実を反映してつくられるフィクションの世界でも、この“ブーム”は起きているようだ。アスペルガーらしき人物が登場するフィクションは、どう読まれるべきなのか――?
『「劇場版 ATARU」OFFICIAL BOOK~N・A(NAKAI×ATARU)ビジュアルワールド~』(角川マガジンズ)
近年、映画や小説でも作中に発達障害を思わせる人物が登場するケースをよく目にする。例えば今年の上半期に芥川賞を受賞した『コンビニ人間』【1】は、主人公・古倉恵子の振る舞いがアスペルガーの特徴と一致するという声は読んだ人の間で数多くささやかれていたし、映画『ソーシャル・ネットワーク』【2】でも、主人公のマーク・ザッカーバーグ(フェイスブック創業者)の描かれ方が極めて発達障害的だと映画評においても指摘されていた。あるいは、人気の海外ドラマ『SHERLOCK』【3】では、ワトソン博士がホームズのことをアスペルガーではないか、と指摘するシーンが描かれる。もしや、フィクションの世界においても“アスペルガー・ブーム”が起こっているのだろうか? 現役精神科医であり、『精神科医が読み解く名作の中の病』(新潮社)の著者でもある岩波明氏に話を聞いた。
「確かに国内国外問わず、そういった作品はこの10年くらいで増えたように感じます。私も『名作の中の病』の中で、世界的ベストセラーとなったミステリー小説『ミレニアム』【4】と、2011年に太宰治賞と三島由紀夫賞を受賞した小説『こちらあみ子』【5】を、登場人物に発達障害/アスペルガー症候群の特徴が見られる作品として取り上げました」