表現の自由はないけど、他国は批判し放題!戦意高揚に、タブーなし! 世界各国のプロパガンダ映画

――国民に政治的思想を植えつけるために製作されるプロパガンダ映画は、国家によるマインドコントロールの代名詞ともいえる。しかし、国の事情によっては製作を通じて映画産業が発展したり、逆に体制批判に利用されることもある。そこで、今回は世界各国で制作されているプロパガンダ映画の本質に迫りたい。

『たのしいプロパガンダ』(イースト新書Q)

 二度の世界大戦に米ソ冷戦。そんな動乱の20世紀に発達した映画というメディアは、民衆をコントロールするプロパガンダのツールとして国家にたびたび利用されてきた。特に、戦争の主役であった日独米ソでは『戦艦ポチョムキン』(1925年・ソ)、『意志の勝利』(34年・独)、『汝の敵日本を知れ』(45年・米)など、数多くの作品が生み出され、それぞれの勢力圏に多大な影響を与えたといわれている。

 近現代史研究家の辻田真佐憲氏によれば、そもそもプロパガンダとは「政治的かつ組織的な宣伝行為であり、最新の娯楽を取り入れる傾向がある」とのこと。大戦から冷戦期にかけて、映像メディアの主役は徐々に映画からテレビへと移行したが「テレビの普及が遅れた国や、メディア規制の厳しい国では依然として映画が強い影響力を持っていました」(同)という。そのような性質を持つ国々の多くに共通するのは、共産主義の独裁体制であるということだ。今回は、閉じられた国家で独自の発展を遂げた“知られざるプロパガンダ映画の事情”にスポットを当てていく。

 まず、身近なところで該当する国を考えると、北朝鮮と中国はどうしても外せない。この二国の映画について、アジア映画史を専門とする明治学院大学の門間貴志准教授はこう語る。

「どちらも反米・反日・反資本主義で一致する独裁国家ですから、その思想に準じた作品が多いです。ただ、意外なことに権力批判をする作品も存在するんですよ。たとえば北朝鮮の『わが家の問題』という作品では、働き者で評判だった郵便局長が妻にそそのかされ、不正に手を染めていく様子が描かれています。映画を通じて、このクラスの役人なら批判しても大丈夫ということを暗に伝えているわけですね。また、60年代に起こった文化大革命で映画産業に深刻な打撃を受けた中国では、まず文革を否定することから業界の復興が始まりました。といっても、元凶である毛沢東の批判には至らないんですけどね」

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