【特別対談】イスラーム法学者・中田考/哲学者、作家・東浩紀――民主主義はこれからどうなるのか?【後編】

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(写真/有元伸也)

――本誌10月号に掲載した前編では、トルコにおけるイスラム教徒の現状に始まり、哲学者・東浩紀氏は、イスラーム的な「法の支配」とルソーの思想「一般意志」の類似点を論じ、イスラーム法学者・中田考氏は、現代の国際社会が蚊かける領域国民国家は欺瞞であり、理想を実現する制度は「カリフ制」のみである……などと議論を繰り広げた。一見、暴論と捉える向きも多いかもしれない。だが、リベラル、そして民主主義の矛盾や批判が叫ばれる中、こうした“暴論”こそが、問題の突破口を開く鍵を持っているはずだ。後編ではさらに、カリフ制と「一般意志2.0」との対比を論じることで、来たるべき未来社会における民主主義を徹底討議した。

カリフ制は危険思想扱いされていた

 中田さんは、近年、学術的なものから一般啓蒙書まで含めて、カリフ制に関する著作を次々と出されています。中田さんの本を読んで、カリフ制について知った日本人も大勢いるでしょう。

中田 まず、大前提として数年前までは、アラブの世界でカリフ制を唱えることはほとんどタブーでした。国家の独裁者や政府にしてみれば、カリフ制が実現したら、自分たちの利権は失われてしまう。

 カリフ制は危険思想だったんですね。

中田 そうです。例えば2年前のトルコでは、カリフ制という言葉すら、あまり口に出すことができませんでした。国際会議ですら、私がカリフ制について話すと、全員がシーンとしてしまったぐらいです。

 そういう時代が、かなり続いていたんですね。1990年大前半に、本気でカリフ制の再興を主張していたのは「解放党」だけでした。解放党は1949年に創設された政治結社で、長年、非合法組織として地下活動を展開していました。私も、サウジアラビア滞在中に、解放党の思想と出会って大きな影響を受けたクチです。それから、積極的にカリフ制を主張するようになり、イスラーム世界の国際会議で「カリフ制はムスリムの義務だ」と言い続けてきたんです。

 著書に書かれていましたが、インドネシアでは、数万人が集まった集会で演説されたとか。

中田 ええ。インドネシアは、アラブの春に先立って、1998年にスハルト政権が倒れた。そのおかげで言論が自由化され、解放党も自由に活動できるようになったんです。そして2007年にはジャカルタの大きなスタジアムで、解放党主催の第1回「国際カリフ会議」が行われ、そこに私も招かれたんです。公称10万人ですが、おそらく6~7万人ぐらいは入っていました。そこで「カリフ制再興!」という演説をしたんです。その映像は、今でもYouTubeで「Ko Nakata」と検索すれば見ることができます。

 聴衆はどういう人たちなんですか?

中田 解放党のシンパの人たちですね。解放党というのは、大学の知識人を中心に広まっている運動ですが、プロモーションがうまいので、全国で100万ほどのシンパがいて6~7万人を動員できる力は持っている。別の言い方をすれば、カリフ制がムスリムの義務だという主張は、それだけムスリムには響くメッセージなんですよ。

 なるほど。もうひとつ伺いたいんですが、日本でカリフ制の議論をする場合、ムスリムを相手にするのとは、語り口は異なるものでしょうか?

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