『シン・ゴジラ』――日本が実現できなかった“成熟”の可能性を描く、“お仕事映画”としての『シン・ゴジラ』

――批評家・宇野常寛が主宰するインディーズ・カルチャー誌「PLANETS」とサイゾーによる、カルチャー批評対談──。

宇野常寛[批評家]× 真実一郎[現役サラリーマン]

9月4日時点で、興行収入が60億円を突破。今年最大の邦画ヒット作になっている。

今夏最大のヒット作&話題作となり、リピーターも続出している『シン・ゴジラ』。すでに賛否含めて批評や感想があちらこちらに散らばるが、ここでは改めてシンプルに、庵野秀明が描こうとしたものと、その成果を読み解いてみたい。

真実 3・11の後、宇野さんにお会いした時「今後はフィクションにとって、厳しい時代になる。その代わり、“怪獣”的な想像力が蘇るかもしれない」とおっしゃっていたのを覚えているんですが、東日本大震災から5年たって、まさに『シン・ゴジラ』で、その通りになりましたね。怪獣好きにとっては、まさか21世紀に、オタクじゃない人たちと、こんなに怪獣のことを語れる日が来るなんて──と、それだけでうれしい。そもそも僕のような第二次オタク世代にとって、庵野秀明はDAICON版『帰ってきたウルトラマン』【1】など、もともと特撮の人というイメージでした。アマチュア特撮映画を作っていた人が『新世紀エヴァンゲリオン』を経由して、ついに日本を代表するゴジラというキャラクターで特撮映画を撮ったことは、非常に感慨深いです。

宇野 正直、公開前はそんなに期待していなかった。理由はいくつかあるけど、ひとつは『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(12年)ですよね。『エヴァQ』では冷戦期にイメージされていた終末の風景、つまり世界を一瞬で焼き尽くす原爆的な破滅が大安売りされていて、そのセカイ系的な陳腐さに白けてしまった。その庵野秀明が、『シン・ゴジラ』では、この先半永久的に世界を内部から蝕んで壊死していくような原発的な破滅を描くことによって、新しい形で「ゴジラ」を再生させたのは、良い意味で意外だった。

真実 『エヴァ』でずっと10代の少年の自意識や承認欲求について描いてきた人が、 “働く”ということを真正面から描くようになったのは、ものすごく大きな変化に思えました。『シン・ゴジラ』は “お仕事映画”だった。劇中では、ほぼ全部のキャラクターが、大事なシーンで「仕事」という言葉を使う。「仕事ですから」とか「総理の仕事って大変だなぁ」とか。組織の中での自分の使命を最優先にして働く大人たちというのは、これまで庵野さんが描いていたキャラクターとかなり違うものだな、と。それは、自分の会社として株式会社カラーを作った影響も大きいのかな、と思いました。

宇野 庵野秀明という作家は、基本的に自分の人生からしか作品を作らない人なので、「働く」ことを通して世の中について考えてみよう、というのはあったと思う。

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2024.11.21 UP DATE

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