――広島カープの人気や『広島はすごい』(新潮新書)が話題になるなど、何かと注目が集まる広島県。市民の多くが「旧市民球場跡地」へのサッカー専用スタジアム建設を望む一方で、徹底的にその要望をはねのける行政。原爆ドームを間近に望むかの地を開発できない理由とは? 広島最大のタブーに切り込んだ。
広島に原爆が投下された16年8月6日も、サンフレッチェはホームで名古屋グランパスを迎え、2−0で勝利していた。
昨年、森保一監督の就任4年間で3度目となるJ1優勝を飾ったサンフレッチェ広島。日本最強チームの地位を確固たるものにし、地元・広島もさぞ祝賀ムードに沸き返っているかと思いきや、住民たちの顔は予想外に険しい。その原因は、サンフレッチェの新たなホームスタジアム建設予定地をめぐる終わりの見えない論戦だ。現在候補地に挙げられているのは、同市宇品海岸の「広島みなと公園」と、市の中心地に位置し、原爆ドームを間近に望む「旧広島市民球場跡地(以下、球場跡地)」。県や市、商工会議所が前者を、サンフレッチェや多くの市民は後者を推しているが、議論は平行線の一途をたどっている。
一見、さして珍しくもない行政と民間企業・住民のすれ違いにも思えるが、事態がただごとでないとを示唆するのが、16年4月にサンフレッチェの久保允誉会長による「みなと公園に決まった場合、サンフレッチェは使わない」という発言だ。行政と使用者の協調が不可欠なスタジアム建設にあって、ここまでかたくなな姿勢を示すこと自体が異様な自体。50代のサポーターが話す。
「交通アクセスや建設費用、収益性などを比べた際、みなと公園案は明らかに劣る。にもかかわらず、市は明確な根拠を示さず、球場跡地案を排除しようとする。問題は『どうにかみなと公園に誘導し、球場跡地は手付かずにしておきたい』という『不自然な作為』が感じられることです。サンフレッチェは球場跡地案の優位性を裏付ける詳細な見積もりを含む建設案を市に提出していますし、球場跡地支持の署名も40万以上も集まっているにもかかわらずです」