――京都が誇る超高級伝統工芸といえば、京友禅や西陣織が有名だろう。しかし、それらの生産においては、被差別部落民や在日朝鮮人の存在が欠かせなかったことを知る人は少ないのではないか。そこで今回は、京都の産業を支えてきた被差別部落民、在日朝鮮人にスポットを当て、その裏面史を追っていきたい。
註:日本に居住する韓国籍や朝鮮籍の方についてはさまざまな呼称が存在するが、本稿では特に断りのない限り「在日朝鮮人」とした。また、被差別部落について具体的な地名や過去に差別的な意味で用いられた呼称を記載するが、これは差別を助長するものではなく、歴史的な事実・経緯を説明するために使用する。
『西陣 織屋のおぼえ書き 京都 西陣織の系譜と世界の染織』(世界文化社)
京都は、千年の都としてきらびやかに語られる一方で、その影にも注目されることが多い。その代表ともいえるのが、在日朝鮮人と被差別部落の問題ではないだろうか。在日朝鮮人問題では、ウトロ集落の不法占拠が有名であり、他方の被差別部落問題では、京都市内の被差別部落をモチーフとした小説『特殊部落』(28日公開予定記事『京都社会の裏側を描くブックガイド』参照)の差別表現に対する抗議活動が後の行政闘争の契機となった。
このように、京都を語る際には、在日朝鮮人と被差別部落の問題を見て見ぬふりはできない節がある。しかし、その切り取られ方が差別や貧困、裏社会といった“影”を帯びているためか、彼らが与えた京都産業に対する大きな影響について、スポットが当てられることは少ないのではないだろうか。もちろん、被差別部落問題については、奈良や岡山など、地域によってその状況に差はあるが、ここでは、日本を代表する京都の伝統産業である友禅染・西陣織と、京都における在日朝鮮人と被差別部落の、表立ってあまり語られない関係を掘り起こしていきたい。
伝統産業を支えた在日朝鮮人の存在
「戦前から友禅染と西陣織を支えていたのは在日朝鮮人だ」
そう指摘するのは、『韓人日本移民社会経済史』(明石書店/1997年2月)などの学術書や論文を発表している社会経済史家の河明生氏だ。