【哲学入門】あらためて注目される分配の問題――限りある資源を誰に、どのように、分配するのが正しいのか

(写真/永峰拓也)

『ニコマコス倫理学』

アリストテレス(高田三郎訳)/岩波文庫/940円+税
哲学だけでなく、自然科学や生物学、政治学、芸術など広範な仕事を残した古代ギリシャの哲学者アリストテレス。そんな知の巨人が人間の究極の目的は最高善を手にすることとし、その方法について論じた倫理学の古典。

『ニコマス倫理学』より引用
(略)すなわち、もし当事者が均等なひとびとでないならば、彼らは均等なものを取得すべきではないのであって、ここからして、もし均等なひとびとが均等ならぬものを、ないしは均等ならぬひとびとが均等なものを取得したり配分されたりすることがあればそこに闘争や悶着が生ずるのである。

 さらに、「価値に相応の」という見地から見てもこのことは明らかであろう。
けだし、配分における「正しい」わけまえは何らかの意味における価値(アクシア)に相応のものでなくてはならないことは誰しも異論のないところであろう。

 分配の問題があらためて注目されています。たとえばヨーロッパ諸国では極右政党が勢力を増しています。なぜ人権を重んじるヨーロッパの国々で、移民排除を唱える極右政党が支持を拡大しているのでしょうか。それは、「財政難でわれわれ自国民の社会保障すらままならないのに、なぜ移民のために財源をつかわなくてはならなのか」という問題意識が社会に広がっているからです。つまり、政府の予算という「限りある社会的資源」を誰に分配するのか、という分配の問題がそこでは鋭く問われているんですね。極右政党の支持者たちはその分配の問題に対して、「政府の予算はわれわれ自国民のものだから、それはわれわれ自国民のためにつかわれなくてはならない」と考えるのです。

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