北朝鮮の核・ミサイル開発に不可欠だった日本の研究者たちの存在――核・ミサイル開発を支えた組織「科協」

――4度目の核実験などを受けて、日本が再開した独自制裁の一部によって、「科協」なる組織関係者への再入国禁止令が出されていると報じられている。そしてその関係者には国立大学の研究者が含まれていたことが発覚。ここにもまた、北朝鮮を支える見えざる多額の“援助”が存在していた──。

『わが朝鮮総連の罪と罰』(文春文庫) 

 日本政府は3月、朝鮮総連(以下、総連)関係者の訪朝後の再入国を禁止するなど、一部緩和していた独自制裁を再開した。中でも注目すべきは、再入国禁止措置の対象者22人の中に、5人の「在日本朝鮮人科学技術協会(科協)」関係者がいたことである。5月1日には、そのうちのひとりが京都大学・原子炉実験所の男性准教授であることが産経新聞などによって報じられた。

 この科協について知るためにはまず、総連による北朝鮮への“経済支援”について俯瞰して見ていく必要がある。総連は北朝鮮への経済支援活動を主な活動課題としており、団体の規約にも「祖国の富強発展に貢献」と明記していた。そして、この“貢献”の柱となるのが、総連による北朝鮮への物資送付、商業や工業を生業にしている商工人による日朝合弁事業と科協による技術支援なのだ。

 公安関係機関が作成したある内部資料によれば、1980年以降の主要な実績だけでも、総連による物資送付は300億円を超えている。また、85年から開始された日朝合弁事業では、約100件の事業を展開。これらの活動に従事する総連関係者が北朝鮮に送金・持ち出した現金は、2000年以降だけで、24億円を超えるという。北朝鮮のGDPが約1兆円、国防費が約1000億円であることを考えれば、その貢献度は非常に高い。

 そして、問題の科協については、ある公安機関関係者が「金額で表せない多大な貢献をした」と主張する。

「科協の任務は、北朝鮮への先端技術の供与、専門文献や資料の送付、北朝鮮科学者との共同研究や技術指導です。日本の国立・私立大学や研究機関、電機メーカーなどに在籍する1000人を超す科学者や技術者が、この目的のために活動しているんですよ。さらに、今回科協関係者として再入国禁止措置の対象となった人物の中にも、京大の准教授のほかに、国公立での核研究に関係する人物が2名挙げられていました。研究で得た知識が本当に北朝鮮の核・ミサイル技術の一部を支えてきたとすれば、その貢献度は多大なものです。金額に換算するなら、北の国家予算レベルに匹敵するのではないでしょうか」(同)

 そもそも科協が注目を集めたのは、98年8月に北朝鮮が初めて行った中距離弾道ミサイル「テポドン1号」の発射だった。翌99年3月、7年ぶりに平壌で開かれた「全国科学者・技術者大会」の席上で、時の崔泰福党書記は科協の会長などを前に、「人工衛星を成功裏に発射したのは貴重な成果。在日朝鮮人の科学者・技術者は大きく貢献した」と彼らの功績を褒めたたえている。

 では、先の公安関係者がいう“国家予算レベル”の貢献とは、具体的にどれほどの金銭的価値があったのか? 通常、人工衛星打ち上げロケットの費用は、開発費と打ち上げ費、維持費に分類される。まず、テポドン1号の開発費などを推測するには、日本が自主技術で86年から開発を始めた液体燃料・2段式【編註:テポドン1号は液体燃料・3段式】の「H-2」が参考となるだろう。H-2の開発費は2750億円、打ち上げ費は190億円、維持費は170億円だ。また、同時期に欧州宇宙機関が開発した人工衛星打ち上げロケット「アリアン5」の開発費は9000億円、打ち上げ費は100億円。当然時期や物価に多少の差はあるが、こうした他国の費用と比較すれば、テポドン1号においても、数千億円単位の費用がかかったことは明らかだろう。

 そして、ここである脱北者の言葉も紹介したい。03年5月に米国のシンクタンク「ハドソン研究所」が開いた北朝鮮の大量破壊兵器や弾道ミサイルの製造等に関する記者会見で、同国のミサイル開発に9年間携わっていたというその元技師は、「核、生物、化学の大量破壊兵器と弾道ミサイルの製造に必要な機械類、部品はほぼ100%、外国からの輸入に頼ってきた。この輸入のうちの90%が日本からで、日本領土からさまざまな方法で直接北朝鮮に持ってくるという調達の方法がとられてきた」と証言した。

 こうした発言や、これまでの彼らの任務に鑑みれば、科協の貢献は金額にして数千億円から、北朝鮮のGDPに近い1兆円規模にもなるのではないだろうか。

北朝鮮の核・ミサイル開発を支えているのはミサイル輸出によって得た外貨だけでなく、日本が大きく関係してきたということも、見逃せない事実なのである。

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