売人の悲哀、大麻賛美、睡眠薬中毒……イラン人プッシャーをフルボッコ!ラッパーが歌うドラッグのリアル

――2000年代、麻薬密売の現場を描いた“ハスラー・ラップ”なるスタイルが、アンダーグラウンドな日本語ラップのシーンに現れた。その後も、各種の薬物を綴ったリリックは散見されるが、ラッパーたちはクスリにどうアプローチしてきたのか? ドラッグ描写のあるラップの“パンチライン”を挙げながら、その深奥に迫りたい。

 2009年、練マザファッカーの中心人物・D.Oの音楽事務所にいた元力士の若麒麟が大麻取締法違反で逮捕され、D.O自身もコカイン所持で逮捕された。角界の大麻汚染を象徴する事件として記憶している読者もいるだろうが、D.Oは00年代にアンダーグラウンドな日本語ラップ界でブームとなった“ハスラー・ラップ”の担い手の一人であった。

 この通称となっている“ハスリング”とは、商売を意味する言葉である一方、ドラッグ・ディール(麻薬取引)を指すスラングでもある。つまり、ハスラー・ラップでは薬物密売などの裏稼業が歌われていたわけだが、そんなシーンにいたD.O率いる練マザファッカーは07年、ダウンタウンが司会のバラエティ番組『リンカーン』(TBS系)に出演し、お茶の間に“ディスる”などのスラングを浸透させた。さらに、メジャー・レーベルのエイベックスからD.Oのソロ作『Just Ballin' Now』の発売が予定されていたものの、冒頭の事件のせいで発売中止になったのだ。

“売り手”の悲哀を表したハスラー・ラップ

09年に薬物事件で世間を騒がせた後、カムバックしたD.O。「悪党の詩」のMVより。

 ところで、なぜ00年代の日本でハスラー・ラップのような表現が成立したのか? 本稿では、日本語ラップにおけるドラッグ描写の変遷をひも解いていきたいが、まずキーマンとなるのはDragon Ashの「Greatful Days」(99年)に客演したZeebraかもしれない。こちらの記事でも述べたように、同曲で〈俺は東京生まれHIP HOP育ち/悪そうな奴は大体友達〉とラップした彼は、日本語ラップのマーケットを拡大すべく、“悪そうな奴”=漠然としたヤンキー層もターゲットにしたといえる。音楽ライターの磯部涼氏は「以後、幅広い不良たちが日本語ラップを聴き始め、身近な犯罪や自らの裏稼業をリリックにするラッパーも頻出するようになったのでは」と指摘する。

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2024.11.21 UP DATE

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