回収──。本やCDなどの制作にかかわる人間からすると、この言葉は最悪の事態にほかならない。苦労して作った作品を流通させるも、時には諸事情により回収という憂き目を見てしまう。ではこうした回収に発展するまでの線引きと、そのメカニズムは、いかなるものなのだろうか?
『生きるセンター漢字・小説語句』(駿台文庫)
出版物からCD・DVD、さらにはゲームソフトまで、すべてのパッケージコンテンツには「回収」というリスクが付きまとう。その原因の多くは、落丁乱丁やデータミスなど、人為的過誤が多い。こうした一度流通に乗って全国にまかれたパッケージを回収しなければならないという非常事態は、どのような時に起こってきたのか。本号のテーマである「スキャンダル」との関連を踏まえながら、出版業界を中心にその歴史を探ってみたい。
最近話題になった回収“本”といえば、駿台予備校が発行する駿台文庫のラインナップ『生きるセンター漢字・小説語句』がある。駿台の人気講師が手がけた漢字問題集なのだが、その中に「ゆっくり奥までソウニュウしてください」「彼女がリズミカルにシめ付けてきた」といった例題が多く入っており、2015年2月に出版した版元は今年に入って販売停止と書店在庫の自主回収を決めた。無論、過激なAVが氾濫している当世において、この程度の字句は大した問題ではないかもしれないが、受験生向けの一見真面目な問題集に、これらがちりばめられていたのはいかにもまずかったのであろう。
最近の話題と紐付けると、広瀬すず主演による映画『ちはやふる』。競技かるたの世界を題材としたこの作品の原作マンガの作者、末次由紀も、過去に回収騒動の当事者となっている。