意識高いは「メンヘラ予備軍」!? 『ちはやふる』に見る2大イタイ系女子の闇と攻略法

――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。

映画『ちはやふる』公式サイトより。

「アイドルじゃなくて女優だから」のエクスキューズのおかげで、ロリコンおじさんが大手を振って「好き」を公言できる便利女優・広瀬すず主演の映画『ちはやふる』が、3月と4月に前後編で連続公開される。本稿執筆時点で映画は公開前なので、今回は原作コミック版を考察したい。

『ちはやふる』は、競技かるた「小倉百人一首」に青春をかける少年少女たちの青春物語だ。連載誌は成人女性向けの「BE・LOVE」(講談社)。作者の末次由紀も女性だが、実は少女マンガの皮をかぶった少年マンガである。

 試合シーンは『ドラゴンボール』や『HUNTER×HUNTER』や『ジョジョの奇妙な冒険』(すべて集英社)のバトル並みに、スピーディかつ激アツ。「上の句の一文字目の“F音”を最速で聞き分ける」などというSFじみた能力ウンチクがそれを盛り上げる。「できない。勝つ想像が」「障る。強さの気配」といった倒置法セリフにほとばしる厨二感もたまらない。少年の心を持つオヤジの大好物要素がてんこ盛りなのだ。

 主人公・綾瀬千早は、天才的なかるたの才能を持つ長身美女。天真爛漫で、熱く、ポジティブで、少しだけ天然の、絵に描いたようなヒロインだ。『ドラゴンボール』でいうなら悟空にあたる。

 だが、男性諸氏が注目すべきは、悟空ポジションの千早や、ベジータ、フリーザにあたる綺羅星のごときライバルのかるたガールズたちではない。『ちはやふる』の白眉は、むしろ輝いてないサイド――非キラキラ女子の描写にある。「非キラキラ」は少々行儀のいい表現なので、思い切ってわかりやすく言おう。「メンヘラ予備軍」「闇堕ち系」の女子キャラたちである。

 そんな「非キラキラ」の二大巨塔が、千早が1年生のときに対戦した24歳の元かるたクイーン山本由美(ユーミン)と、千早が3年生になった時、同じかるた部に入部してきた1年生の田丸翠だ。

 銀行で窓口業務の仕事をしているユーミンは、化粧っけがなく髪パッサパサ感のある地味女。田丸はおかっぱのダサメガネで、こちらも地味顔。作者は意図的に、2人を「華のない不美人」に描いている。

 ユーミンの全盛期は大学時代。一度はクイーンの座に就いたが、その後伸び悩み、対戦成績はがた落ち。なまじ一度頂点を極めてしまっただけに、周囲の期待に応えられないことで、どんどん病んでいく。自己評価がとてつもなく低く、ネガティブ思考が行くところまで行ってしまった。それが試合にも悪影響を与え、さらに勝率を下げている。

 現実世界に転じるなら、ユーミンは「社会人になってつまずいた高学歴女子」そのものだ。地元では優等生、親戚や町内からの評価も高く、「できる子」として歩んできた。学校では、成績上位をキープ。遊びや男にかまけるギャルどもは、ひとくくりにして軽蔑。地元なんかでくすぶってる私じゃない! と意気込んで上京し、意気揚々と都内の大学に進学する。ここまでは良かった。

 彼女がつまずくのは就職してからだ。多くの企業において、若手社会人に取り急ぎ必要なスキルは学校の偏差値ではない。コミュ力や根回し力、要領や人当たりの良さだ。そんなもの、学校では一切教えてくれなかった。話が違う。

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