――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。
『東京ディズニーランド パーフェクトガイドブック 2016』(講談社)
先日、10代から20代の男女を対象にしたアンケート結果の記事化という仕事を請け負った。そこに「彼氏・彼女と付き合っていて、一番うれしかったことは?」という設問があったのだが、その自由回答欄で飽きるほど目についたのが、「一緒にディズニーランドへ行けたこと(ハート)」であった。
東京ディズニーランドと東京ディズニーシー(以下、ディズニーランド)は、年間3000万人以上が訪れる日本最強のアミューズメント施設。同時に、「キャラ」と「物語」で精密に構築された、継ぎ目のないフィクションでもある。実際ディズニーランドは、周囲に高い建物のない浦安の湾岸部にあるので、パーク内から外界の現実世界はほぼ見ることができない。物理的にも現実から遮断された、よくできたフィクションなのだ。
公式HPによるとディズニーランドの入園者数は7割が女性。またアンケートの自由回答欄にディズニーランドに対する想いを意気揚々と書き込んでいたのは、多くが女性だった。今回は、そんな「国内最強フィクション」に惹かれるオトメゴコロについて考えてみたい。が、一方でディズニーランドをバカにする男どもは少なくない。彼らの嘲笑ポイントは以下のごとく多岐にわたる。
「お揃いコーデ」と称し、示し合わせて同じ服、同じコスプレで浮足立つ女子同士、もしくは男女学生グループ。女子大生が高校時代の制服を着て楽しむ「制服ディズニー」。いい大人が「ミッキーの耳」をつけ、珍奇なポップコーンケースを首から提げる茶番。
パレードやショウへの過剰な執着も嘲笑の対象だ。一般参賀さながらの熱狂ぶりで「ミッキー様ぁぁぁぁ~」と喘ぐ成人女性。砂かぶり席で見ようと、極寒の真冬でも敷物・折りたたみ椅子・ブランケットの完全装備で道端に陣取る女子たちの血走った目、過激派のようなマスク。ここは新装開店のパチンコ屋前なのか。炊き出し待ちホームレス大集合の公園なのか。
施設の壁や設備にこっそりかたどられた「隠れミッキー」に狂喜乱舞し、露店売りのターキーレッグ(七面鳥の脚)700円也を30分並んで買う。閉園間際の定番は、シンデレラ城前でのサプライズプレゼント&プロポーズ、乙!
重箱の隅的なポリティカル・コレクトネスをいやらしく振りかざすなら、ノスタルジーでは片付けられない時代逆行もチラホラ見られる。
ディズニープリンセスたちは一部を除いて「王子様出現待ち」な前近代的存在であり、しおらしく男性の従属物と化している。「女の子は、おしとやかで美しくあるべき」という価値観の押しつけを我慢できないフェミ系界隈の論客は、パークあげてのプリンセス推しに何を想うのか。