「サイゾー1月号 マンガ(禁)事情」ウェブ限定記事!
――禁断ネタがオンパレードのBL(ボーイズラブ)マンガ。一定数の市民権を得ているらしいけれど、美女とデートすることを妄想するとウキウキする筆者(男性)にはもう、未知の世界。「男と男の恋愛を見て何が楽しいんじゃ!?」という気分であるが、今は「男もBLを読む時代」らしい。マジか。BLを愛好する女性たちが“腐女子”として世間でもてはやされているが、男性でもBLを好む人たちがおり、年々広がりを見せているとか。そこで今回、7年前に本誌で実施した“日本全国「腐男子」育成計画”を復活させて3名の“リアルBL男子”を招き、男でも楽しめるBLマンガについて、その魅力を語り合ってもらった。
【今回の座談会参加者一覧】
Oさん: 20代男性。ゲームアプリ制作会社勤務。
Yさん: 20代男性。ゲームアプリ制作会社勤務。
Uさん: 30代男性。電子書籍業界勤務。
座談会司会進行T:サイゾー編集部きってのBL好き腐女子。
BLを愛した学生時代……BL勧誘は“吹奏楽部系女子”がオススメ
――今回はお越し頂きありがとうございます。さっそくですが、まず、皆さんがBLを好きになったきっかけは何ですか?
『純情ロマンチカ』/仲村春菊/角川書店
O: 僕は小学校のときに『封神演義』が好きで、小学校の近所の本屋さんで『封神演義』のアンソロジーを読んでこの世界を知りました。
U: 本屋にあったよね(笑)。『 封神演義』と『ONE PIECE』のBLモノが多いですよね。ゾロとサンジが仲良くしている普通のアンソロジーだと思って買ったら、中身は実はそうではない(笑) 。このパターンがめちゃくちゃ多い。
――『新世紀エヴァンゲリオン』のBLモノも本屋に普通に売ってたりしましたよね。絵のクオリティーが高いものが多かったから何の抵抗もなく手にとって、スルッとBLの世界に入ってしまう。
U: エヴァの同人誌はBLだけじゃなくて、男性用のエロでも流行ってましたからね。表紙だと区別がつかなかったりして。
Y: 僕は、高校ではBLを布教してました。
一同: オー!!
Y: 中学は腐女子の友達がいたのでよかったのですが、高校が別になってしまい。話し相手がいなくなったけど、BLマンガを読んでいるのを学校の女の子にたまたま見られて…。でもそれがきっかけでその子たちに『純情ロマンチカ』を全部貸したり、買わせたりして仲間を増やしました。吹奏楽部とか狙いでしたね(笑) 吹奏楽部系女子はBLの世界に入りやすい。
O: 僕はリアルの場に仲間が全然いなくて、自分でBL同人のサイトを作ったり2次創作を描いたりしてました。その後、サイトの管理人同士でオフ会をするようになったりもして。10年来の友達もいます。
U: 私は、ガチにBL漫画を読み始めたのはここ2~3年。電子書籍で読むことが多いです。女性のBL仲間が多くて、マンガ家さんや声優さん達と腐女子会みたいなのをたまにやってます。
――BL好き男子というと、誰にも打ち明けないでひっそりとBLを楽しんでいるイメージをもっていましたが、皆さんアグレッシブなんですね!
濃ゆ~いキャラと禁断の世界観がイイ
『西洋骨董洋菓子店』/よしながふみ/新書館
――普通の恋愛マンガではなく、BLマンガが好きな理由は?
O: 僕はどっちも好きなのですが、BLのほうが恋愛の枷が多いと思うんですね。同性愛ならではの独特の枷があって、男性同士の恋愛にしかない切なさとか葛藤がある。女性の主人公の恋愛マンガより主人公に感情移入できてキュンとしたりします。
Y: 僕も少女マンガが好きでした。青木琴美さんの『僕は妹に恋をする』とか禁断系が好きで、「禁断の恋」をつきつめるうちにBLにたどり着いた。あとBLはキャラの個性が強くて好きです。少女マンガだとホンワカしたキャラが多いですが、BLだと学園モノからヤクザモノまで設定も幅広いし、メガネ攻めとか年上受けとか、攻めにも受けにも属性があります。キャラクターが一人ひとり個性的で楽しい。
――BLはキャラ立ちしていないと売れにくいという話も聞きます。
O: ですね。例えば恋愛ゲームだとヒロインに色をつけるとユーザーが感情移入しにくいですが、(BLは)女性向けコンテンツでありながら主人公が男性。女性が直接的に感情移入する必要がないからこそ、さまざまなキャラクター付けができるのかなと思います。
――逆にBLのネックや苦手な部分はありますか?
U: 私は……あまりエグいシーンはいらなくて、男同士だからこそ描けるいい話を読みたいです。最終的にハッピーエンドになるのが好き。だんだんと2人の距離が縮まる過程を繊細に描いてくれるとうれしい。逆にまわりが皆ゲイばっかりで、3ページ目にはプレイが始まる……というものは感情移入が難しくてちょっと苦手です。
Y: 僕は、単行本が高いのがキツイです。最近値段が上がってきてて1冊800円以上のものもザラにあります。友達が買う『ONE PIECE』は2冊買っても千円でお釣りがくるのに、BLは1500円くらい払わないといけません。
――たしかに高いですよね。アンソロジーも高い。
U: 単純に利益を出すためには仕方ないんでしょうね。書籍の売り上げも落ちてきているようですし。
Y: それで言うと、集英社が「WEBLink」ていうBLサイトを立ち上げて電子市場に参入してきてます。
U: 集英社さんまでBLに参入してきたか! って感じですよね。
BL男子が増える背景: 電子書籍市場のシェア増加
『10DANCE』/井上 佐藤/竹書房
――BL初心者の男子にオススメする作品として、例えばよしながふみの『西洋骨董洋菓子店(アンティーク)』は入りとして良くないですか? 以前にTVドラマ化もされましたが、原作マンガはもうちょっと濃く、BLを匂わせる描写もあります。
O: 確かにいいですね。BL要素もありつつ、エロに寄りすぎていない感じが入りやすい。
――ほかに、BLを初めて読むときにオススメしたい作品はありますか?
O: 恋愛が主軸じゃない……『10DANCE(テンダンス)』とかいいかもしれない。男2人の心が近づいて恋愛っぽくなっていく感じはあるけど、一方で社交ダンスのスポーツ性を描くので、少年マンガっぽさもあり男子でもとっつきやすいはず。
――ダンス極めるぞ! っていうスポ魂要素がありますもんね。『西洋骨董洋菓子店』も洋菓子という大っきなテーマがあって、恋愛要素が主軸から少し外れる。
『SUPER NATURAL』/絵津鼓/プランタン出版
U: いきなり男の主人公が好きな男の前で顔を赤らめたりしたら、男性読者には抵抗あるかもしれないですもんね。『10DANCE』は出だしにそういうシーンがほとんどないので読みやすい。
――では最近、皆さんが最近気に入った作品は?
O: 絵津鼓先生の『SUPER NATURAL』良かったです。恋愛マンガでもそうですが、「カップルがくっつくまでの話」ていうのは多いと思うんですが、カップルがくっついた後の話は難しい。でもこの作品では、恋人同士に何もアクシデントが起きない静かな筆致で、大きな事件を起こさずにちょっとした心理描写で読ませる。装丁もすごくかわいい。
Y: 僕は絵津鼓先生なら『ラストフライデイ』のほうが好きです。絵津鼓先生は注目の作家さんですよね。
『ラストフライデイ』/絵津鼓/大洋図書
U:私は……ギャグ要素が強めのBLマンガも結構好きです。『美男と野獣』という作品で、サブタイトルが「惚れたゴツメン・掘られたイケメン」(笑)。見た目が両津勘吉みたいな主人公が出てきます。頭にプリン乗せて卓球やったりギャグマンガ的なシーンもあるんですが、ちゃんとBL作品で、男同士のラブ要素もあります(笑) 。エロはかなり少なめですけど、面白くて好きです。
Y:『俺物語』に通ずるものがあって萌えますよね。
U: あと、好きなのが、新人作家の楡野ユキさん(原作:橘 紅緒)の『未完成パズル』。女性も適当なモブキャラでなく、物語に絡んできていて、男女複数のルームシェア設定で、表紙もすごく良くて今注目しています。一巻目を電子書籍で読んで、コレはイイぞと。
Y: 電子書籍といえば、BLは特に電子が盛り上がっている気がする。少女マンガだと電子で読む人は少ないのに、BLになると途端に「kindleで読んでる」と言う子が多い。
『美男と野獣』/烏馳ガン/フューチャーコミックス
――電子書籍サービスの普及で男性もよりBLがより読みやすくなったのでは?
U: 書店でBLマンガはちょっと買いづらいイメージありますもんね。
O: 家に置いておくのに抵抗ある人もいるはず。
――それに、電子だと試し読みができるからハズレに当たる確率が減りましたね。
O: レビューもすぐ見られる。
U: そう、腐女子向けの情報サイトの「ちるちる」とか、Renta(編注: 電子書籍のレンタルサイト)のレビューってすごい。ガチのBL好きの方が書いてることもあって、見ててすごく伝わってくる。
『未完成パズル』/楡野ユキ/エンターブレイン
――Uさんは電子書籍関連のお仕事をされてますが、BLの電子書籍で男性読者が増えている感じはしますか?
U: 微増、ですかね。前より増えている感じはします。男性が読みやすいBLマンガが増えたのと、BLのシェアが全体的に増えて、書店で目にしやすくなったのも要因に挙げられるかもしれません。あとはネットの普及で、広告バナーから誘導されてきたユーザーもいるみたいですね。
――電子書籍のバナー多いですよね。あの坊さんのエロマンガのやつとか(笑)
U: そうそう! 先生たちのペンネームも「毛根一直線」とかインパクトがすごい(笑) 。インパクトといえば、最近気になってる『壁ごしの思春期。』(著者:椿)もストーリー設定が面白い。女遊びの激しい兄に弟が「兄さん、家に女連れこむのやめてよ!」と注意するけど、兄は止まらない。見かねた弟が「そんなに性欲溜まってるなら僕が解消してあげる」ってなる(笑)
Y: すごい設定(笑)。ふゅーじょんぷろだくと(編注: 同人漫画情報誌「COMIC BOXジュニア」やBLアンソロジーを手がける出版社。「オメガバースプロジェクト」なども手がける)みたいですね。あそこの採用面接もすごくて、作文のテーマが「BLは世界を征服できるか」という壮大なものだったとか(笑)
BL男子はプライベートの恋愛もBL?
『壁ごしの思春期。』/椿/ソフトライン 東京漫画社
――ところで、プライベートでBL的な恋愛をしたことありますか?
O: 僕は基本は女性とですが、男性とお付き合いしたことあります。
――BLの影響で?
O: 元々、BL的感覚で男の人にキュンとすることがあったんですよ。でも女性と縁があってお付き合いすることが多かったんです。が、ある日すごいアプローチしてくださる年上の男性の方がいて、嫌悪感もなかったので、人生経験もかねて1年くらい付き合いました。男性のほうがどこをどう褒めてほしいとか分かりやすくて良好な関係を築きやすかったです。女性は生理周期とかあって感情の起伏を読むのが難しい。
Y: 僕はそういう経験まったくないですけど、男子校に行きたかったなという後悔がちょっとだけあります。中学生・高校生のときになんか同性に得も言われぬ感情を抱くことってありませんでした? 友情以上に愛しくなるというか…。もしかしたらあれは恋心だったかもしれないなって、BLを読んで思い返したりして。
U: 私は男子校です。いや辛かった! アレは地獄の日々ですよ(笑) 。でも実は……2回告られました。1回は、高2のバスケ部の合宿で告られました。
――友達に?
U:はい。その学校のバスケ部って2人でやる練習が多くて、その相棒だったんですよ。
一同: ドラマチック!
Y: 1本BL作品作れますね(笑)
U: 僕は女の子が好きなノーマルな男子だったのでお断りしたんですけど、次の日のパス練習がすごく気まずかった(笑)。相手の顔がまともに見れなくなって、全然違うところにボールを投げてしまって、監督に怒られる。「お前、今日急にどうしたんだよ? 調子悪いのか?」って。理由は絶対に言えない(笑)
O: それはもう、BLマンガなら結ばれちゃう流れですね。
Y: よくあるのは同窓会で再会。「あの時はごめんな!」の挨拶からまた恋が芽生える。
――向こうが一回結婚して、離婚してたりしてね!
U: あ、先月その人、離婚したんですよ(笑)
一同: エー!?
U: 「先月離婚した」って電話かかってきました……。
――うわー!ドキドキしますね!
U: 私は……冷静に考えても女性との恋愛しかできないです(笑)。でも、BLの世界を知って男と女の恋愛が全てじゃないと思えるようになりました。彼との過去のやり取りも、今ではいい思い出のように思えますね。
――BL男子の恋愛事情もマンガのようにドラマチックですね…萌える話、ありがとうございました!