――前編に引き続き、佐伯雄大、老舗出版社営業幹部A氏、中堅書店員B氏が2015年の出版流通業界をメッタ斬り!後編はいよいよ1~5位のネタを斬る!
出版流通業界10大ニュース
1位 日販の赤字&栗田破産=取次クラッシュ
2位 紀伊國屋書店、村上春樹本の買取=出版流通イノベーションジャパンの戦略
3位 新潮社が図書館の貸出猶予を検討=無料貸本屋問題
4位 リブロ池袋店閉店&三省堂書店出店
5位 KADOKAWA、アマゾンと直取引=広まる直取引
6位 アマゾン時限再販で紀伊國屋に怒られる出版社
7位 あゆみBOOKS買収&ジュンク100店体制=書店経営
8位 軽減税率=書籍・雑誌は後回し
9位 TSUTAYA図書館問題
10位 有隣堂STORYSTORY、ファミマ×TSUTAYA 書店複合出店ラッシュ
『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』(朝日文庫)
佐伯 さあ後編に突入ということで、1~5位のランキングは次の通りとなった。やはり1位は栗田破たんと日販の上半期取次業の赤字という取次クラッシュ。2位がその陰に隠れたとはいえ紀伊國屋書店がアマゾンに対抗するために、出版社から村上春樹本を買い取った話。3位が10年ぶりに再燃した図書館の無料貸本屋論争、4位がリブロ閉店、5位がアマゾンとKADOKAWAの直取引という結果となった。
書店B リブロの閉店は正直ショックだった。今年早々にその話が飛び込んできて、わが耳を疑ったのが、「大家に追い出された」という閉店理由だった。大家である西武百貨店もリブロもはっきりとした理由を説明していないが、トーハンで取締役も務めているセブンアンドアイホールディングスの鈴木敏文会長が動いたと言われている。つまり、西武百貨店にはトーハンと競合する日販の子会社である書店・リブロが入っている。トーハン帳合に変えてほしい、そうリブロにも帳合変更を打診したという話もきこえてきたが、土台無理な話。結局、契約更新しないという大ナタが振るわれたようだ。
出版社A 閉店する話が出た時は、次の出店について、様々な憶測が流れた。本命は三省堂書店、対抗が紀伊國屋書店、ブックファーストなどなど。結局、そのまま三省堂書店に入れ替わっただけだった。リブロは「池袋本店は黒字だった」と明言していたし、書店を追い出して書店を入れた明確な理由が、まったく分からない。後から入った三省堂書店の現場と話をすると、「何か、すみません」的な感じになっていた。
書店B リブロ池袋本店は、児童書や学・参がかなり売れた店。これらのジャンルの出版社では、リアル書店では3本の指に入るところもあったのではないか。また、今さらだけど「ニューアカの聖地」として、業界的には「今泉棚」など、かなり評価の高い書店だった。当時、活躍していた人の多くはリブロを離れて、別の書店で活躍しているが、私は今も尊敬している。
出版社A そういう意味でも三省堂書店のハードルは上がったね。でも、12月6日にグランドオープン(全館オープン)を果たし、売上も順調のようだ。出版社としては、リブロの後に書店が入らないことが最悪の事態だったから、これからは三省堂書店での売上を互いに伸ばしていければと思う。
佐伯 今年もアマゾンネタには、困らなかった。昨年末から噂されていたが、KADOKAWAが全商品でアマゾンと直取引に動いた。中小出版社が悩んでいるところへ、大きな決断だったと思う。しかも、正味は70%を超えているとも聞いた。
出版社A 11月にアマゾンの売り伸ばしセミナーに出席した。全商品を直取引の対象にしたら正味を60から66%へ出版社の条件を良くするという話だった。歩戻しもなしで、支払いも月末締めの翌月末払い。通常の委託商品で、取次に入れる正味は67%で5%の歩戻し。結果、実質正味は62%となる。となれば、アマゾンへは直取引で、と考える出版社も出てきているようだ。委託商品の場合、7カ月目清算(取次によって変わる)となることを考えれば、なおさらだろう。セミナーのときに、アマゾンの担当者は、栗田の破たんがあって、出版社の加入が伸びたと言っていた。これが出版社の本音なのだろう。書店も取次も厳しくなれば、アマゾンが餌をちらつかせていると分かっていながら、直取引「e託販売サービス」を選択してしまう。まるでアリ地獄かのように。
書店B アマゾンとの関係が深くなればなるほど、アマゾンに搾取されることを出版社は考えないのだろうか? 年間契約しかり、直取引しかり。いま売れるからといって、これから先もずっと売れ続けるわけはない。いずれ頭打ちが来る。それはそんなに遠くはないだろう。年間契約を止めた版元に聞いたら、アマゾンは相当な仕打ちを出版社にしたらしい。検索結果などでのお薦め商品にあえて表示しない、カート落ちもほったらかし、あげくはアマゾンの倉庫から商品を一斉に返品してくる、などなど。そうした前例をつくりながらアマゾンは、「いまうちとの年間契約を止めたら売上が10%は落ちる」と出版社に圧力をかけているとも聞いた。さすがに売上が10%も落ちると出版社も厳しい。年間契約のアマゾンへの支払い報奨が上がったとしても、10%ダウンよりはまし、と契約を更新してしまうようだ。
出版社A うちは、直取引はしていないし、これからもする気はない。66%とか、他にも70%近い正味を持ちかけられている版元もあると聞く。ただ、その条件が未来永劫続くはずもない。おそらく単年度更新で、新たに低い条件を提示してくるのだろう。うちが契約しないのは、そのためだ。だが、直取引している出版社は確実に増えているのも一方で事実だろう。出版社のアマゾン依存はますます深まっていくおそれがある。出版社にとっても、売上を上げる選択肢がなくなっているのが原因だ。むしろ、アマゾンがそういうプレシャーを出版社にかけてくる会社だと割り切って、今から有利な条件でアマゾンと契約しようと考える出版社もある。実際、取次だって成績が悪ければ、歩戻し交渉してくるのだから、交渉相手が取次から手ごわいアマゾンに変わったともいえるだろう。
佐伯 アマゾンのこうした出版社への攻勢と出版社のアマゾン贔屓の現状に、一石を投じたのが紀伊國屋書店だった。やり方については賛否両論あるが、ああいう姿勢がリアル書店にも大事だろう。時限再販(6位)のときのように。
書店B あれは中小書店には厳しい掛け率だった。通常の委託条件に毛の生えた正味で買切りというのは……。正直、私は客注分くらいを頼んで、あとは大書店にまかせたい気持ちだった。単品の売行きでは書店全商品の売上に及ぼす影響はそれほど多くはない。それに、紀伊國屋書店の買い切り話は急きょ決まったのだろう。それまで普通に版元のスイッチ・パブリッシングから注文書が来て希望数をファックスしていたが、紀伊國屋書店が突如買い切りの発表をしてから、出版社は書店に改めて案内を送ってきた。ドタバタのなかでの取り決めだったゆえに、ああいう正味になったのかもしれない。
出版社A 紀伊國屋の買い切りは、出版社としては大変ありがたい話だろう。今も紀伊國屋書店は小さい企画で買い切りはやっていると聞いているが、こういう取り組みはもっと増やしてほしい。買い切りであれば、アマゾンを優先せずに書店さんに本をお渡ししたい。だが、今も紀伊國屋書店は「村上春樹本」を一等地で売っている。書店には売れ残りのことを考えて、一定期間を過ぎた場合は定価を割り引くことができるようにするなどの手当ても必要となってくるのかもしれない。
佐伯 紀伊國屋書店のこの取り組みは間違いなく出版流通史に残る出来事。2016年はそうした取り組みがもっと出てくるだろう。そういう意味では、出版社と図書館の新しい関係の築き方というのも2015年のテーマになった。それは、皮肉にも図書館の無料貸本屋論争の再燃が、きっかけだった。
書店B 図書館がうちと明確に競合しているとは言わないが、新刊予約にあれだけの人が殺到しているところをみてしまうと、「なんだかなー」と唸ってしまうのが本音。だって、書店で普通に売っている本を買わずに図書館で1年も待って借りようとするのだから。もっといえば、うちに入る新刊は大手書店に比べればスズメの涙程度。まだ入るだけ、ましなんだろうけど、文芸出版社の本をもっと中小書店にもまわしてほしいよ。新潮社の佐藤隆信社長が、貸出が販売に影響を与えていると思うなら、極論は図書館に卸さずに書店にもっと卸してほしいと思う。そうしたら、うちだって、もっと売れるよ。
出版社A うちは図書館さんにはお世話になっているので、新潮社さんみたいに貸出猶予を求めたり、無料貸本屋と批判はできない。ただ、複本に端を発する貸本屋論についてはモノ申したい。こちらとしては一時リクエストが集中する、1年後、2年後には誰にも見向きもされないような「流行本」を、たくさん買って資料費を無駄遣いするよりも、価値があると思える本を購入してほしい。ただでさえ、資料費が年々減っているのだから。この問題は2016年も続くらしいが、むしろ図書館と書店とコラボして、どうやって本を売るか、そっちに頭を使うのが、出版営業としては懸命なのではなかろうか。
佐伯 最後に1位の取次クラッシュだが、私がビジネスジャーナルで書いた上半期の日販単体の本業赤字(出版取次業の赤字)、そして栗田の破たんという取次業界の大問題に移りたい。
出版社A 栗田の民事再生にも驚いたが、日販の件にはもっと驚いた。これは本当の話なんでしょうか?
佐伯 確たる証拠がある、本当の話です。
出版社A 失礼しました。であるとすれば、もう一方の雄・トーハンも同じ状況なんですかね? 同じ時期に上半期決算発表を出しているが、そういう話は聞いていなかった。
佐伯 日販(業界1位)もトーハン(業界2位)も同じ穴のむじな。赤字とは言わないが、出版取次業は厳しいでしょう。大阪屋(業界3位)も栗田(業界4位)もそうでしたし、T社だって予断を許さない。
出版社A 確かに、昨年は、楽天や大日本印刷、大手出版社による大阪屋への出資による経営再建があった。トーハンから取引先を変更した明林堂書店(大分)がすぐさま倒産した件やブックファーストがトーハンに帳合変更したことなどで経営は相当厳しくなっていたと聞く。今年6月には、栗田がメインバンクのみずほ銀行から手のひらを返されたかのように見捨てられて、経営破たんした。銀行などの金融機関が最大債権者となるはずの民事再生の事案において、出版社が最大債権者となる、「なんともおかしな民事再生」が12月24日に成立してしまった。同日行われた債権者集会では、総投票数が851人、そのうち賛成が806人で再生計画案が可決した。何と、反対がたった45人しかいなかった。債権者説明会ではあれだけもめたにも関わらず、これしか反対しなかったのも、不思議な話だ。
書店B 書店からすれば、取次は大企業。そんな会社がこれほど厳しいとは思わなかった。うちのような中小書店がまだ経営できているのに、なぜ何百億円も何千億円も売上のある大企業がこんな有様なのか。うちは取次への支払いは100%だ。百歩ゆずって、雑誌の売上が落ちて、書籍・雑誌の返品が増えているため流通コストが上がって、経営に打撃を与えているというのは分かる。でも、栗田も大阪屋も経営者は、人員削減以外に経営努力をしてきたのだろうか?
出版社A 大阪屋への統合が、大手版元の力を借りて栗田ができた最大の経営努力だったのだろう。元々、OKCという共同倉庫を大阪屋と運営していて、何十年も前から東の栗田と西の大阪屋が合併すれば第三勢力が生まれるという話はよく出ていた。まあ、OKCの設立の頃には、そういう話も具体的になってきたようだが、結局は互いの財務が悪くて一緒になれなかったというのが本当のところなのでは。
書店B うちは大阪屋とも栗田とも取引したことがないので分からないが、書店側から見ると、両社と取引のある書店が助かったことが最大の利点だったのではないか。出版社は栗田の民事再生に対して、かなり批判的な人もいたが、栗田帳合の書店が存続できたことを、不幸中の幸いと思うこともできる。大阪屋も同様だろう。そこで、心配なのがT社なのでは?
出版社A まあ、T社については……。ただ、栗田の民事再生があったときに、T社に対して出荷制限した出版社もあった。年末にかけても、T社に関する噂がかなり流れていて、25日や28日に何らかの発表があるのでは? とまことしやかに言われていたが、何もなかった。まあ、噂というのはこんなものだろう。
佐伯 取次トップの日販が本業赤字、取次3位、4位がそろって破たんすれば、もう取次は厳しいと思うのは当たり前だ。それもやはり、雑誌によって支えられてきた出版流通が雑誌不振によって機能不全に陥ってきたことを示しているのだろう。まして、運送業からも出版流通の安い賃金ではやっていけないと反発がある。だが、コンビニの急増による配達先は増加しているのだから、始末に置かない。取次はもう、大量流通時代から脱却した新しい物流機能を提示しなくてはならないときに来ているのは間違いない。
出版社A 元々、書籍は雑誌流通に抱き合わせて、運搬されているからこそ、いまの正味で成り立つのだろう。だが、これから書籍・雑誌の運送頻度も物量も少ない時代に入っていく。そうなったときに、取次はどうするのか? 書店に別のものを運んで頻度や物量を上げるのか? または頻度や物量が少ない書籍流通のコストに見合った物流となるのか?
書店B そうしたら、書店の正味もいまよりも低くなるのだろうか?
出版社A 取次としてはシェア拡大が念頭にあるから、書店の正味を今いじることはないだろう。むしろ、出版社の正味を徐々に削っていくのが優先課題ではないか。
佐伯 出版流通は、トーハン勢のセブンイレブンを念頭に入れた物流網の構築がある一方、日販勢は大阪屋、栗田などとの協業による物流網がある。しかし、その一方は崩れてきている。出版流通はどう進化していくのだろうか? 2016年も取次問題に端を発して、アマゾン、紀伊國屋書店(出版流通イノベーションジャパンも)からも目が離せない1年になるだろう。