――マツコがテレビで活躍するにつれ思い出されるのがナンシー関。気鋭のお笑い評論家が、2人の比較から、現在のテレビ界を斬る!
お笑い評論家
ラリー遠田
らりー・とおだ 1979年生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ制作会社勤務を経て、ライター、お笑い評論家として多方面で活動。吉田正樹事務所所属。最新著書『逆襲する山里亮太』(双葉社)ほか、お笑いに関する著書多数。
ナンシー関の対談集『語りあかそう』(河出文庫)。かつて行われたマツコとの対談も、ぜひ収録してほしかった。
マツコ・デラックスという人物と、現在の彼女が主戦場としているテレビというメディアのことを考えるにあたって、1本の補助線を引いてみたい。「ナンシー関」という補助線を。
ナンシー関は伝説的なテレビコラムニストだ。02年に亡くなるまで、テレビコラムを書き続けていた。鋭く、歯切れ良く、ユーモアと愛に満ちたコラムは、読者からも絶大な支持を得ていたし、テレビ業界関係者からも一目置かれていた。
ナンシーの死後、テレビバラエティは無法地帯と化した。ヒットした番組の二番煎じの安易な企画が横行し、志の低い番組が次々に量産された。
同じくコラムニストという肩書を持ち、女性芸能人を題材にしてコラムを書くことも多かったマツコは、しばしばナンシー関と比較される。人並み外れた巨体、鋭い人間観察力、容赦ない毒舌とそれを和らげるユーモアなど、2人の間には共通点がいくつかある。ただ、その中でも重要なのは、彼女たちが古き良きテレビの世界に対して絶対的な憧れと好意を持っているということだ。