――ゼロ年代とジェノサイズの後に残ったのは、不愉快な荒野だった?生きながら葬られた〈元〉批評家が、墓の下から現代文化と批評界隈を覗き込む〈時代観察記〉
稀代の才人・青島幸男も、結局、小説は一発屋だった。
栗田出版販売(業界第4位の取次)すら民事再生法適用を申請する世知辛い世相と関係があるのかないのか、本誌は毎年恒例の本特集とのことで、担当さんから又吉直樹氏の小説について感想を訊かれた。「又吉栄喜は『豚の報い』でしたっけ?」「それは第114回芥川賞です。いつの話ですか」「ああ、又吉イエスのほうでしたか」「いえ、ピース又吉です」という馬鹿な会話はさておき、「文學界」の……いや、芥川賞候補の『火花』は読んでいた。
しかし、担当さんには悪いのだけど、あまり面白い感想にはならない。タレント本として読むには自意識の歪みがなく、笑いの当事者が書く自伝的小説という意味では、青島幸男『人間万事塞翁が丙午』のケース(第85回直木賞)に近いからだ。芸人の生活を描いた小説も、藤本義一『鬼の詩』(第71回直木賞)や難波利三『てんのじ村』(第91回直木賞)が過去に獲っているから、題材としてもそれほど違和感はない。芥川賞候補になったのは珍しいが、世間がその違いに興味を抱くとは思えないし、かつて辻仁成が芥川賞候補になった時のモヤモヤする背伸び感もない。