イルカ漁は奴隷制度!? 水族館問題で再浮上『ザ・コーヴ』が孕む問題

“水族館騒動”のワケ

14年、オーストラリアのイルカ漁撲滅推進団体AFD代表、サラ・ルーカス氏が、和歌山県太地町の「町立くじらの博物館」への入館を断られたのは人権侵害だとして町に慰謝料を払うよう求めた。さらに同氏は今年3月、太地町で捕獲されたイルカを購入する日本の水族館はWAZAの倫理規定に背いており、WAZAはJAZAを除名すべきだと主張、そのことが今回の騒動につながっている。

映画『ザ・コーヴ』のポスター。同作は、10年3月に開催された第82回アカデミー賞にて長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した。

 今年5月9日、国内153の動物園や水族館などで組織される日本動物園水族館協会(JAZA)が、世界動物園水族館協会(WAZA)から会員資格を停止されたことが明るみに出た。日本の多くの水族館におけるイルカの入手先が、和歌山県太地町で行われているイルカ追い込み漁であることが問題視されたことが、その理由だという。JAZAはこの処置を受け、同月20日、同地からのイルカ入手を今後取りやめる代わりに、WAZAへの加盟継続を決議。日本の水族館でよく見られた「イルカショー」の存続が危ぶまれる事態となっている。

 同地でのイルカ追い込み漁といえば、2009年にアメリカで公開された映画『ザ・コーヴ』【1】であろう。同作は10年に日本でも公開され、国内外で大きな議論を巻き起こした。

 そんな折も折、同作の国内配給権を持つ映画配給会社アンプラグドの社長・加藤武史氏【2】が、その配給権を返上したというニュースが飛び込んできた。『ザ・コーヴ』に違和感を持ち、現在、クジラとイルカ問題をテーマにドキュメンタリー制作を進めているアメリカ在住の気鋭の映画監督・佐々木芽生氏【3】を対談相手に、加藤氏の真意に迫った。

加藤武史(以下、) 『ザ・コーヴ』の配給権は本来17年まででしたが、早期に切り上げて制作者に戻しました。理由は3つ。まず今回の水族館問題でのイルカ入手先問題が注目を集めた結果、同作の映像を使いたがるメディアがたくさん出てきた。ですが、同作が描いた、海がイルカの血で赤く染まる漁は現在では行われていないんです。しかし、物議をかもしたあの映像のインパクトが強く、現在でも行われているといった誤解を招きやすい。その状況に加担してしまうくらいなら、日本での権利はもう所有しないほうがよいだろうと考えたこと。2つめは、私は問題提起になればとあの作品を購入したわけですが、当時あれだけ騒動になったこともあり、劇場どころか、BS、CSも含めてテレビ局に営業してもまったく放映機会を得られず、ビジネス面でのメリットがないこと。3つめは、日本の問題が日本人の手で映像化されていないことにもどかしさを感じていましたが、まさに佐々木監督がこの問題を映画化しようとしていらっしゃると聞き、『ザ・コーヴ』の役目は終わったと判断したことです。

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