――現代のテクノロジーはみな、戦争を通じて進化してきた。核戦争にも耐え得る通信ネットワークとして開発されたインターネット、砲弾の弾道計算機として生み出されたコンピュータなどなど、例を挙げれば枚挙にいとまがない。そんな戦争とITにおいて、いま注目されているのが無人機だ。果たして、その進化具合とは?
(絵/小笠原徹)
2015年度予算案で、防衛省は米国の偵察型無人機「グローバルホーク」の操縦システム購入費などに154億円を盛り込んだと、報じられた。「公海上などでの警戒監視や情報収集活動の強化」を挙げ、沖縄県・尖閣諸島上空などの監視飛行と同時に、北朝鮮の移動式弾道ミサイル「ノドン」への対応手段として、18年度までに3機を取得する計画だという。また、米軍はグローバルホークを、19年までに、韓国政府にも4機輸出すると公表している。
そもそも無人機の歴史は、第二次世界大戦時にさかのぼる。この頃から軍による開発が開始され、1950年代には、ジェット推進の標的機を実用化した。
以降、各国の軍事組織が今日まで無人機の開発に注力してきた背景について、防衛省関係者のA氏は「人間でいえば脳と神経にあたる”C4I”のため」だと話す。この”C4I”とは、指揮(Command)、統制(Control)、通信(Communication)コンピュータ(Computer)、そして情報(Intelligence)の頭文字を集約したもので、軍隊が戦うために必要不可欠な要素のこと。これらの要素をシステム化したものが「C4Iシステム」で、無人機は情報収集のセンサーとして、欠かせないものとなっている。
「そもそも無人機というと、空爆などを行う攻撃型のイメージが強いかもしれませんが……そんなことを行っているのは米軍だけ。無人機が行う作戦のほとんどは偵察任務なんです。特に、”C4I”で無人偵察機が重要な役割を果たすようになったのは、戦争形態が変化してからのことです。90年の湾岸戦争以降の戦争、つまり、戦争が非対称戦と呼ばれる『対テロ戦争』になって以降、武力による正規軍同士の戦闘がほとんど行われない代わりに、要人暗殺や人質救出、拠点の破壊など、特殊部隊をはじめとした少数の部隊が敵地において政治的な任務を遂行するようになりました。
このような戦闘では、極めて高度な政治判断が必要になります。国際法や国内法の問題、メディア対策など、これまでの軍事作戦よりも判断する要素が多く、判断を誤った場合、政権維持や戦争遂行に大きな支障を来たしてしまう。そのため、”ビッグボス”といわれる最高指揮官(大統領など)が現地の詳細な状況を把握して”エクスキューズ(攻撃許可)”を出す必要があるのです。その情報を視覚的に提供する手段こそ、無人機による偵察なのです。第二次大戦までのホワイトハウスでは世界地図を見て戦略を立てていればよかったのですが、今は暗殺作戦をリアルタイムでモニターしながら決断を下す必要があるのです」(A氏)
実際、防衛省で無人機導入を担当したB氏は、「敵地に接近しなければならない偵察任務に、無人機はうってつけ」と、その活躍を確信しているという。
「軍事作戦で無人機を使う理由は、単純です。ひとつは、有人機が飛行するには危険すぎる場合、もうひとつは、24時間連続飛行などの長時間運用が必要な場合です。現在自衛隊が保有している有人の偵察機、電子情報収集機は、無人機よりも高性能なセンサーを搭載していますが、敵戦闘機によるインターセプト(迎撃)を避けるため、味方の防空識別圏内でしか飛行できません。しかし、無人機なら高高度から敵領域に接近して情報収集することが可能なんです」