――女性が腹を殴られ続けるだけのAVであなたは果たしてヌケるだろうか。人の性癖は数限りないが、「ぶっ飛んだもの」を挙げるなら「暴力」はかなり上位にランクインするだろう。暴力がタブー視される世相にあっても、その需要を満たし続ける性産業。「フィクション」や「プレイ」といった“お約束”の裏側にはどんな世界が広がっているのだろうか。
『封印されたアダルトビデオ』(彩図社)
「女性に恨みがあるわけじゃないんです。確かに僕は女性にずっと無視されてきた。でも、姉がすごく強い存在だったせいか、女性を神聖視してるところがある。そんな絶対不可侵のものが理不尽な暴力で破壊される背徳感が最高に快感なんですよ」
女性がボコボコにされるAVを愛好する矢田健二氏(26・仮名)は、そう語る。職業は会社員。オタク風の容貌だが、どこにでもいそうな青年だ。彼が「一番好きな作品」だという『縛殺奴隷』(豊彦企画)は、概してこんな内容に終始する。
画面に映し出されるのは、明らかにおびえた様子の女性。すると男が現れ、突然頬を引っぱたく。次に女性は頭髪をつかまれて引きずり回され、指が食い込むほどの強さで首をしめられた。女性は涙を流し、助けを求めるが、男は構わず男性器を挿入して女性の腹を殴りながら腰を動かす。最終的には男性器をノドの奥に押し込まれ、大量の吐瀉物が床一面に広がる――そこで描かれるのは実際に行えば確実に罪に問われる”暴力”だ。
近年の日本では暴力団排除条例が全国で施行されたことを筆頭に、あらゆる形の暴力を問題視する流れは特に顕著だ。しかし、性産業においては極めて過激な暴力描写が今なお市民権を得ている。
AVの場合なら先ほどの『縛殺奴隷』以外にも、女性が着衣のまま淡々と腹を殴られるもの、ライターオイルをかけられ背中を焼かれるもの、逆さ吊りの状態で水に沈められて窒息寸前まで追い込まれるものなど多種多様な作品が存在する。「レイプレイ」というアダルトゲームはその名の通り、選択肢によってさまざまな状況でのレイプを体験でき、孕ませた女性を堕胎させる選択肢まである。また、風俗においても「格闘オプション」と称して嬢をボコボコに殴らせる店や、嬢に大便を食べさせる店が存在するなど、もはやなんでもありの状況だ。
本稿では、こうした性産業の当事者たちがどのように暴力と向き合っているかを俯瞰することを通して、現代における暴力のありようを再確認していく。