「信任を得た」新・安倍政権の注視すべきポイント

――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

――自民党の圧勝で終わった第47回衆議院議員総選挙。アベノミクスを問う、という名目で繰り広げられた選挙選だったが、フタを開ければ集団的自衛権や原発再稼働など、安倍政権の政策が信任を受けたとし、それを推し進める姿勢を自民党は明確にした。だが、本当に日本の未来は安倍政権が掲げるものを体現できるのだろうか? 改めて考えてみたい。

『保守とは何か』(文春学藝ライブラリー) 

今月のゲスト
白井聡 [文化学園大学服装学部助教] 

神保 今回は衆院総選挙後初の収録となります。宮台さんは結果をどう見ましたか?

宮台 自民党圧勝は予想通り。でも記録的な低投票率で前回より票を減らしただけでなく、295から291に議席を減らしたのは意外でした。どこよりも多くの資金とマンパワーを投入した政権与党は衝撃を受けたはず。政権の勢いは今がピークで、今後は坂を転げ落ちるからです。第一に〈経済保守〉のふりをして人気を保持しつつ〈政治保守〉としての本懐を遂げるのが最終目標なので、安倍首相が1年半後の参院選までに不人気なイデオロギー的政策のスロットルを踏むから。第二に、金融緩和と財政出動による株価上昇が続いたにせよ、実質所得減少の上に「泣きっ面に蜂」で消費税10%上げが迫るから。両方回避できません。

神保 今回は細かな投票分析より、なぜこの選挙がこのような結果になったのかを考えると共に、結果的に安倍政権が"信任"を受けたことが、これからの日本に何をもたらすかを整理しておきたいと思います。
 
 ゲストをご紹介します。文化学園大学服装学部助教で、4月から京都精華大学人文学部の専任講師に就任することが決定している白井聡さんです。まずは今回の選挙の総論からお聞かせください。

白井 安倍政権が信任されてしまった選挙です。「このままでは、日本がまた戦争をする国になってしまうのではないか」と言われてきましたが、それが新しいステージに入りました。つまり、戦争をすることは既定路線になり、あとはいつ、誰と、どんな戦争をするのか、という状況になってしまった。非常に強い危機感を持っています。

神保 選挙後、安倍晋三総理が自民党総裁として会見を行いましたが、あれだけ「アベノミクス選挙だ」と強調していたにもかかわらず、いざ選挙が終わってみれば、「2年間の安倍政権の政策が信任された」と言いだしています。そこでこの2年間、安倍政権の下で行われてきたことを並べてみると、「集団的自衛権行使を可能とする憲法解釈の変更(専守防衛からの離脱)」「憲法改正」「武器輸出の容認」「特定秘密保護法」「金融緩和の継続」「大型公共支出の継続」「愛国教育の推進」「原発の継続」「TPPへの参加」「ヘイトスピーチの容認」「言論機関への介入」「生活保護の縮小」「非正規雇用の拡大」などになります。この選挙で我々有権者は、これらの政策にお墨付きを与えたわけです。

白井 付け加えるとするなら、歴史修正主義的な見解の歴史観の表明、ないし宣揚があると思います。それから、大学教育へのピント外れな介入もあります。

宮台 安倍は〈経済保守〉のふりをする〈政治保守〉です。ちなみにグローバル化で中間層が分解する昨今、〈経済保守〉と〈社会保守〉が峻別されます。かつて反共、今は反中・反韓に象徴される〈政治保守〉は、友敵図式を用いた感情的動員で、批判理論に従えば、社会が空洞化すると〈政治保守〉が埋め合わせとして浮上する。本来の保守は、E・バークに遡っても、亜細亜主義者に遡っても、「社会らしさ」を保とうとする〈社会保守〉です。他方、原発再稼働・TPP参加・大型公共支出・生活保護縮小・非正規雇用拡大の「経済テコ入れ」は、株価上昇と引き換えに社会を疲弊させる〈経済保守〉。やがてはそれが衆目に瞭然となります。安倍としてはそれまでに「戦後レジームからの脱却」ができれば気が済むわけです。

神保 今回、自民党に投票したのは全有権者の25%ほどですが、果たしてその人たちは、ここに書き出した政策を是認するという認識で投票したのでしょうか?

白井 やはり「アベノミクスで景気が上向くのではないか」という期待が投票行動につながっているのだと思われ、投票した方は「政策パッケージを丸ごと認めたわけではない」と言うでしょう。しかし、それは甘ったれた寝言にすぎない。衆院総選挙というのは実質的に、首相を選ぶ政権選択選挙であり、政策パッケージをトータルで見て、イエスかノーか、という話でしかない。後になって「アベノミクスに期待しただけで、ほかの政策は聞いていない」と言っても、バカげた言い訳にしかなりません。

宮台 有権者は生活が豊かになること──実質所得が増えて購買力が上がること──を期待した。しかしGDPは4~6月期だけでなく7~9月期も大幅マイナス。実質所得も購買力も下がり続けている。政権周辺は「トリクルダウンする(富める者が富めば、やがて貧しい者に富が滴り落ちる)」と言いますが、新自由主義者が喧伝するこの決まり文句が実証されたことは、どこの国でも一度もありません。

白井 結局、メディアプロパガンダに騙されているということです。景気と株価は違う、という当たり前のことを理解できない人が増えてしまったのでしょう。

宮台 異次元の金融緩和で、貨幣が増えて円が下がり、為替効果(ドルで株が買いやすくなる)で株価が上がるけど、景気の好転とは関係ないし、消費税の影響と円安での輸入価格上昇分を引くと、実際はデフレ脱却していないどころか、円安で勤労者の賃金は世界ランクを急速に滑り落ち、三等国化していくのです。

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