物語やキャラの分析だけではマンガはわからない!『進撃の巨人』は絵が上手い!?技術で語る最新マンガ論

――テーマやストーリーからのみ論評されがちなマンガ。では、「絵」そのものやコマ割りや作画法など、技術的な側面からマンガを評することは難しいのだろうか?そこでマンガ評論家4氏にご登場いただき、純粋なビジュアル表現としてのマンガについて分析を加える!

2ちゃんまとめの"画力スレ"やpixivの普及によって、ネットでの"マンガ技術論争"はずいぶん一般的になったようだ。

 テーマやモチーフ、あるいは物語構造やキャラクター分析など、マンガを評する際のアプローチの仕方は数多く存在する。しかし、マンガを「絵」そのものから読み解くような試みは、そう多くはないのではなかろうか。特に雑誌やネットでの一般的なマンガレビューに関していえば、ストーリー分析がそのほとんどというのが実情であろう。
 
 もちろん、そうした視点からのマンガ評論も存在はする。たとえば、マンガ家でありながら旺盛な評論活動でも知られる夏目房之介は、『手塚治虫はどこにいる』(ちくま文庫)においてマンガを、単純に絵のみならず、描線やコマ割りといった複合的な「技術」的側面から分析している。では、そうした視点から昨今のマンガ作品を眺めたとき、単なるストーリーやキャラ分析とは違う風景が広がっているのだろうか? そこで本稿では、マンガ研究者として知られる識者に話を聞きながら、「技術」という観点からマンガの最新事情について考えてみることにしよう。

 さて、本題に入る前に、そもそもマンガの「技術」とは何を指すのだろうか? 『テヅカ・イズ・デッドひらかれたマンガ表現論へ』(星海社新書)などの著作がある、東京工芸大学芸術学部マンガ学科准教授の伊藤剛氏は、それをこう定義する。

「いまのマンガにとって何が技術かということを考えていくと、ひとつには再現可能性に開かれているものということになるのではないでしょうか。要するに、ある程度適切な習得をすれば同じものが作れる、ということですね。そしてもうひとつが、表現上の制約条件、つまりコマの連続やページのめくり、といった所与の条件の中で、いかに手際よく読者に登場人物たちの置かれている状況や心情を伝えられるかということ。簡単にいえば可読性ということですね。かなり抽象的ではありますが、マンガの技術というと、大きくはこの2つに集約されるのではないでしょうか」(同)

 もちろん、通常マンガの技術といった場合、誰もが想起するようにそれは、絵の上手さ――すなわち画力と捉えられることが多いのは確かだと伊藤氏も語る。一般的にはデッサン力や空間把握力という意味合いで使われることの多い、この画力。といってもマンガはデフォルメの表現であり、美術の世界でいうそれとは必ずしも一致しないだろう。しかしいずれにせよ、我々が思わず「このマンガは絵が上手い」といってしまうような、説得力やバランス感覚を伴った絵という意味でいえば、現在のマンガの描き手たちの画力は、驚くほど向上しているのだという。

「パッと見てわかる絵の上手さ、いわゆる画力は間違いなく向上してますね。うちの学生を見ていても、人物、キャラ絵を描くことに関してはものすごく長けている。手際よく可愛くカッコ良く、しかも魅力的にキャラを描き、しかもその身体の動きや複雑な姿勢を描く技術は、若い人の間では非常に上がっていると思います。年配のマンガ家の先生が、『今だったら自分はデビューできないな』なんて言うのは、もはや常套句になっていますから(笑)」(同)

 確かに同人誌の世界を見てもわかるように、アマチュアの描き手たちの画力は、もはやプロと見紛うほど。その要因のひとつとして挙げられるのは、pixivをはじめとするイラスト系SNSサイトの存在だ。誰もが手軽に絵を描いてはネットに投稿し、そこで批評し合って切磋琢磨する。ただし、そうした場で評価される「絵の上手さ」に関して、最新著作『「超」批評 視覚文化×マンガ』が発表される、マンガなど視覚文化の研究者、石岡良治氏はこう語る。

「その手の議論で指摘される絵の上手さというのは、何度も練習することによってその作家が身体でおぼえた職人芸――クラフトマンシップとして褒められているところがあるんです。でも、そういう『上手い絵』に対しては、『しょせんイラストにすぎないじゃないか』といったネガティブな言い方をされることもあって、特に美大に行ったような人は職人芸を軽視しがち。それはただ絵が上手いだけのクラフト(工芸)であって、決してアート(芸術)ではないということです。ただし一方でマンガ好きの中には、単に写実的なわけではない芸術的な絵に対する『アート嫌い』というのも多く存在しているのが、また面白いところなのですが」(石岡氏)

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