――『美味しんぼ』は、れっきとした料理・食マンガとして世の中に認識されている。それでは本職である料理畑の人たちからしてみると、その影響力はいかほどのものなのだろうか?
問題となった鼻血描写。ネットではコラ素材として一部で流行した。(111巻より)
「『美味しんぼ』は、料理マンガ・食マンガとしては、日本の大衆食文化にもっとも大きな影響を与えた作品でしょう。マンガとして面白いものはほかにもあるけれど、影響という意味ではこれをおいてほかにはない」
そう言い切るのは調理専門学校の40代男性講師だ。自身も若い頃は、当時まだ日本では珍しかった料理を紹介することもあった『美味しんぼ』を、時々手に取っていたという。
「同時期に『ザ・シェフ』(日本文芸社)や『クッキングパパ』(講談社/共に85年連載開始)もありましたが、『美味しんぼ』が面白かったのは、時代時代を背景にして『おいしい』とは何か? を模索していたところだと思います。連載が始まった80年代は外食文化が日本に根付いて、エスニックフードブームもあり、バブルを控えた享楽的なムードの中でグルメブームが巻き起こっていた。その中にあって雄山をはじめとする"美食家"と真っ向から対立する山岡さんの存在は痛快だった。しかもメニュー対決では毎回ひとつの食材をテーマにして掘り下げることで、それに関する知識やウンチクも読むことができるというお得感があって、『美味しんぼ』を読んでなんとなく食の世界に興味を持った、という飲食業の人は一定の年齢以上では少なくないと思いますよ」(前出・専門学校講師)