全国を行脚するプロの生業“窃盗犯”1万人の実像

法と犯罪と司法から、我が国のウラ側が見えてくる!! 治安悪化の嘘を喝破する希代の法社会学者が語る、警察・検察行政のウラにひそむ真の"意図"──。

今月のニュース

「窃盗件数10年で半減」
『犯罪白書』(法務省)によると、窃盗の認知件数は、2002年に戦後最多の約238万件を記録したのち減少に転じ、12年には約104万件と激減。また『平成25年の犯罪情勢』(警察庁)によれば、13年に認知された窃盗犯の手口の内訳は、侵入盗約11万件、自動車盗約2万件、ひったくり約8000件、すり約5600件、車上ねらい約9万件、万引き約14万件等となっている。
『彼女たちはなぜ万引きがやめられないのか? 窃盗癖という病』(飛鳥新社)

 2014年10月19日の読売新聞の報道によると、14年7月に岡山県倉敷市で発生した小5女児監禁事件などを受け、岡山県警が県内の小学生~高校生とその保護者を対象にアンケートを実施したところ、保護者の92・5%が「自分が小中学生の頃と比べて危険になった」と回答したそうです。犯罪学上の各種統計から眺めたとき、こうしたいわゆる”体感治安の悪化”が、現実の日本の治安状況とは完全に乖離したものであり、国やメディアによる印象操作の産物であることは、拙著『安全神話崩壊のパラドックス―治安の法社会学』(岩波書店)で指摘し、またこの連載でもたびたび述べてきた通りです。

 そうした”治安”という曖昧なものを客観的に推し量ろうとする場合、その指標として最も一般的に用いられるのが、『犯罪白書』(法務省)の一般刑法犯に関するデータ。一般刑法犯とは、刑法犯から自動車運転過失致死傷罪などの交通関係業過、および特別法犯(道路交通法違反や公職選挙法違反、覚せい剤取締法違反、入管法違反など)を除いた犯罪を指す法律用語で、12年の認知件数はピーク時(02年)の半分以下の138万2490件となっています。

 そして、このうちの実に104万447件、全体の4分の3を占めているのが、「窃盗」です。つまり、窃盗こそが治安状況を考察する上で最も重要な指標であり、犯罪の代名詞というべきものであるわけです。逆に、犯罪の代表格として人々が真っ先に思い浮かべがちな殺人や強盗などは、年間1000~4000件程度という件数からして極めて特別な犯罪であって、犯罪件数の全体的な動向を知るという点ではあまり大きな意味を持たないことになります。

 それだけにこの窃盗という犯罪は、非常に奥が深い。今回は、どんな人間がいかなる行動指針に基づいてこの犯罪に手を染めているのか、また彼ら窃盗犯の世界とはどんなものなのかなど、最もありふれた犯罪、窃盗について論じたいと思います。

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