平和利用への”期待”と”懐疑”──三菱重工の潜水艦開発でついに動く”防衛マネー”

――安倍政権は今年、集団的自衛権行使容認に続き、「武器輸出」解禁を打ち出した。これらは安倍首相が唱える”戦後レジームからの脱却”を象徴する政策であり、未来から振り返れば歴史の転換点となるものだろう。果たして、この武器輸出解禁が日本の未来にどのような影響を与えていくのか? “防衛産業”にたずさわる企業の今後に迫りたい。

現在、神戸港にある川崎重工業の造船所にて整備が行われている潜水艦「こくりゅう」。このすぐ横にある三菱重工業の造船所でも、潜水艦「じんりゅう」の整備が行われていた。オーストラリアとの共同開発が始まれば、この港で、その様子が見られることになるかもしれない。その日は、もう間近なのだろうか……。(写真/高田 遼)

 今年4月1日、”武器輸出を解禁する”政策である「防衛装備移転三原則」が閣議決定され、これまで”武器輸出を禁止していた”政策である「武器輸出三原則」が事実上消滅した。ここでいう武器とは、銃、弾薬、軍艦、戦闘機などの”軍事兵器”のことで、この閣議決定を受けて間もなく、実際にオーストラリアが日本の潜水艦購入を打診。今夏には、両政府がオーストラリアの新型潜水艦の共同開発に関して協議を開始することで合意した。

 こうした流れを受けて、「週刊エコノミスト」(毎日新聞社)や「週刊ダイヤモンド」(ダイヤモンド社)をはじめ、複数のメディアが「武器輸出解禁がもたらす経済効果」について報じてきたが、果たして、その実情はどうなっているのか――改めて、見ていきたい。

 そもそも、日本がこれまで貫いてきた「武器輸出三原則」の起源は、1967年の佐藤栄作首相による国会答弁にさかのぼる。このときに掲げられた「武器輸出三原則」は、東西冷戦を背景として、主に共産主義国家への武器輸出を禁止するというものであった。その後、76年に三木武夫首相が国会答弁した「武器輸出に関する政府統一見解」で、平和憲法の趣旨に基づき、事実上すべての国への武器輸出が禁止されたのである。

 しかし、安倍政権はなぜ今になって、武器輸出を”解禁”する政策に舵を切ったのか。

「武器輸出が禁止されていたといっても、”例外”と称して同盟関係にあるアメリカには、弾道ミサイル防衛システムがこれまでも輸出されてきました。また、パナソニックのタフブックが戦地用のパソコンとして人気だったり、ソニーのCCDカメラがミサイルや統合暗視装置に不可欠になっていたりと、”武器”としてではなく、”民生品”として輸出されたものが軍事利用されるケースならほかにも多々あります。なので、”解禁”というのは今さらな気もするのですが……ここにきて、わざわざ政策として打ち出した一番の理由は、中国への牽制なんです」(防衛省関係者)

 尖閣諸島をめぐって、2010年頃から悪化した日中関係。中国の脅威に対しての危機感が、武器輸出解禁の一番のポイントだと防衛省関係者は語る。実際、国が輸出を認める具体的要件のひとつとして、「日本と安全保障面での協力関係がある国に対する救難、輸送、警戒、監視及び掃海」を示していることからも、それは読み取れるという。

「この新たな三原則の目的はまず、”対中国包囲網”の形成なんです。日本は今、尖閣諸島をめぐって明日にでも中国と戦闘が勃発してもおかしくない状況ですから、国を守るためには、中国が手を出せないように周辺国との防衛関係を強化していく必要があります。

 ここで掲げられた”日本と安全保障面で協力関係にある国”というのは、具体的にはオーストラリア、インド、東南アジア諸国のこと。例えば、潜水艦の共同開発が検討されているオーストラリアは、日本と同じ島国です。鉄鉱石や石炭を輸出し、原油を輸入する海上交通路の防衛と海洋秩序の維持は、オーストラリアの国益上、もっとも重要視されています。日本とは似た境遇下にあることもあり、アメリカ以外では唯一、物品役務と軍事情報を共有できる協定を結んだ”事実上の同盟国”でもあるんですよ。今回の武器輸出解禁は、そうした関係性をより強固なものにしていこうという政策の一環なんです」(前出・防衛省関係者)

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