アマゾンでさえぜんぜん利益出ていない? 出版社格付けの真相

『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』(日経BP社)

 当連載の第10裏話で、アマゾンジャパン(以下、アマゾン)が日本の出版社に牙をむき始めたと書いたが、その本当の理由がようやく明らかになった。

 ある出版社の営業担当幹部は「どうやら、アマゾンのBOOK事業の成長が鈍化しているようだ。単価の安い本まで送料無料を続けているため、BOOK単体の事業では利益がほとんど出ていないとも聞いた」と話す。

 なんと、アマゾンの書籍・雑誌販売の成長が頭打ちになってきているというのだ。別の出版社の営業担当者も「アマゾンと年間契約を結んで数年経ちますが、今では当初の2ケタ成長どころか、数パーセントの伸びに落ちてきています。出版社の経営は出版物の当たり外れに大きく左右されるところもありますが、それを差し引いてもアマゾンの成長にブレーキがかかってきているようにみえます」と話す。

 2ケタ成長は当たり前、出版社の取次ルートの売り上げの1割~2割を占め、低迷する書店(本の小売)業界でナンバーワンの座に君臨したと言われるアマゾンの成長が止まりつつあるというのだ。

 さらに前出の営業幹部は言う。

「アマゾンはすでに、日本の出版界が右肩下がりのまま売り上げが低迷し、2020年には1兆3000億円の規模に縮小すると予測している。アマゾン自体のBOOK(紙の本)事業も当然、減少に転じる時が来るとみていた。しかし、それが早めにやってくるのかもしれない。ここ数カ月のアマゾンの動きがその証左でもある。出版社に対して年間契約の報奨金比率を強引に上げようとしたり、無料だった販売レポートを突如有料にしたり、と出版社にたかる行動が目につき始めた」

 アマゾンは今年10月、およそ1000社もの出版社が利用していると言われる「ベンダーセントラル」という販売支援システムで閲覧できる「販売分析レポート」を有料化すると突如告知し始めた。その料金は年間売り上げ(アマゾンでの)の1%。大手出版社であれば1000万円以上の額になるため、使用を見送ることを決めた社も多いという。

 中小零細出版社では、このレポート有料化を、アマゾンが一方的にメールで通知してきたというやり方に憤る人も多い。とくに、年間契約を締結して販売報奨金をアマゾンに支払う出版社にとってこの有料化は寝耳に水。

「すでに数パーセントの販売報奨を支払っているのに、さらに金を取るのはおかしな話。年間契約を結んでいない出版社なら分かるが、うちは金を払っている。しかも、e託販売サービスという直取引を結べば、販売分析レポートは無料というあからさまな我田引水もどうかと思う」(中堅出版社の営業担当役員)

 さらに寝耳に水の話は続く。第10裏話でも書いたが、8~10月にかけて、年間契約を結ぶ出版社に対して、アマゾンはその報奨金の比率のアップを強引に迫ってきた。中には在庫の返品等をちらつかされて、数パーセントのアップを飲まされた社もあったようだ。

 昨年にはほとんど契約内容の改定の話を耳にすることはなかったし、出版社の間でも話題にはなっていなかった。しかし、今年はいまも契約交渉を続けている社も多いようで、かなりの数の出版社が契約改定を迫られたと考えられる。

「どこの社も報奨金の比率を上げてほしいという要請を受けている。しかも、在庫を返品するとか、仕入れ数を減らすとか、出版社の急所をついて、報奨金をアップさせようとしているんです。でも、この一連の出版社への〝たかり〟は、日本の紙の本の売り上げがマイナス成長に入ることを見越して、少しでも出版社から金を絞りたい(実質の正味下げ)という狙いがアマゾンにはあるのでしょう」(某社営業担当)

 産経新聞(11月10日付=WEB版)でも記事になっていたが、アマゾンが出版社を格付けしているという話が今夏から話題になっていた。本コラムをご覧の読者にはお分かりだろうが、出版社格付けの話は約2年前からあったことで、その事実をコラムでも指摘したところだ。

 最近の格付け方法は、朝日新聞や産経新聞で書かれているような上位から単にプラチナ、ゴールド、シルバー、ベーシックという方式ではなくなっているという。現在は、小学館・講談社・集英社・KADOKAWAという第1位グループ、それ以下50社(アマゾンの売り上げ上位出版社)を第2グループ、さらにそれ以外の契約出版社を第3グループと、3つのグループに分けたうえで、プラチナ、ゴールドなどと順位付けしているというのだ。

 要は、同規模の売り上げの出版社をグループ化し、出版社同士をもっと競わせようという狙いがあるのだろう。出版社同士が競うというのは、各出版社がアマゾンの施策に一層協力するということであり、アマゾンへの依存度をさらに強めるというもの。出版社が年間契約や直取引などでアマゾンに協力すればするほど、アマゾンでの売り上げは上がり、格付けの順位も上がるだろう。それは同時に、自社のアマゾンシェアを高めるという結果を招く。そうなったら、アマゾンは自らのバイイングパワーを背景に出版社に対し、自社に有利な要求を力づくで、飲ませようとするだろう。しかも、アマゾン自体がマイナス成長に入る前に、ある一定の条件を出版社から引き出そうと考えているのではないか。そのための出版社格付けであり、年間契約における報奨金アップであり、販売分析レポートの有料化であるのだろう。

 今年はまだ序の口なのかもしれない。出版社から金をむしり取るための算段はすでに立ててあり、来年はさらに輪をかけた苛烈な要求がアマゾンから飛び出してくるのかもしれない。

(文/佐伯雄大)

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