――R指定のヤバい暴力を描き続ける韓国映画界の鬼才、キム・ギドク監督。最新作『メビウス』は、これまたヤバいと評判の一作だ。なぜ彼はタブーを犯しても、作品を作り続けるのか?
(写真/若原瑞昌)
韓国映画界の鬼才キム・ギドク監督の最新作『メビウス』が、この冬いよいよ日本でも公開される。
ギドク作品の醍醐味といえば、やはりなんといっても、いろんな意味で「痛い」こと。親子の愛憎がテーマの今作でも、旦那の浮気に怒り狂った妻が、憎さ余って一人息子のムスコをちょん切るという、期待を裏切らないハードコアな展開が待ち受ける。ともすれば、露悪的とも思えるそんな「痛い」作品群を次々に生み落とす監督自身の真意はどこにあるのか?
「人が生きていく上で”痛み”は避けては通れないもの。だからこそ私は、もしかすると人生の大部分を占めるかもしれない、不可避な現象としての”痛み”に興味がある。物理的な痛さを通して、その本質をどう描くか。それが私が作品に込める共通のテーマです。
ちなみに、現代を生きる韓国の人々の感情のなかには、いわゆる日帝時代と朝鮮戦争という2つの事件から受けた”痛み”が感情的な遺伝とでもいうべき記憶として残っている。韓国映画に”痛み”を強調した作品が多いのは、そうした背景とも決して無関係ではないと思います。それこそ”ピー”という音が入りそうですけどね」