独自記事発信も始めたバイラルメディアというウェブメディアの新しい形

進化の歩みを止めないIT業界。日々新しい情報が世間を賑わしてはいても、そのニュースの裏にある真の状況まで見通すのは、なかなか難しいものである――。業界を知り尽くしたジャーナリストの目から、最先端IT事情を深読み・裏読み!

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 昨今日本のウェブ界隈では、バイラルメディアの賛否を論ずる声がかまびすしい。怪しげな手法で「いいね!」を稼ぐサイトや、既存の動画や画像を貼りつけただけのサイトが跋扈し、確かに批判の的になりがちな素地がそこにはある。一方、アメリカではすでにバイラルメディア自体が、次のフェーズへと進んでいる。PV稼ぎだけでない、バイラルメディアの進化を考えてみたい。

 アメリカの新興メディア「BuzzFeed(バズフィード)」が、シリコンバレーの有名なベンチャーキャピタル(VC)であるアンドリーセン・ホロウィッツから5000万ドル(約52億円)を資金調達した。これでバズフィードの株式評価額は、8億5000万ドル(約894億円)にもなったと言われている。

 アンドリーセン・ホロウィッツは、1990年代にインターネット業界をリードしたネットスケープの創業者たちが設立し、ここ最近では最も成功しているVCとされている。そのVCが巨額投資したというので、バズフィードの将来可能性がにわかに注目されるようになった。

 バズフィードは、ハフィントンポストの共同創業者であるジョナ・ペレッティらが2006年に設立したバイラルメディアだ。バイラルメディアというのは、直訳すれば「ウィルスのように感染するメディア」。フェイスブックやツイッターなどのSNSを活用し、コンテンツを強力に拡散させるパワーを持っていることから、新興メディアの一群がそう呼ばれている。実際、バズフィードの威力はものすごく、ユニークユーザー数は1億5000万人。フェイスブックで記事に「いいね!」される数のトータルは、月間2000万以上になっている。もともとは動物のおもしろ動画や、「○○する15の方法」といったリスティクル(リスト記事)が中心で、「内容がない」「ほかのメディア記事の転載ばかり」といった批判もあったが、調達資金や広告収益を投下して大手新聞社などからジャーナリストを多数引き抜き、質の高い独自記事も発信するようになっている。今春、ニューヨークタイムズが「このままでは新興メディアに負けてしまう」と衝撃的な内部報告書を作っていたことが話題になったが【先月号本欄にて既報】、この報告書の内容もバズフィードがスクープしたものだった。

 とはいえバズフィードは、従来の新聞社やテレビ局のようなメディア企業とはまったく異なる。さらに言えば、1990年代から00年代にかけてたくさん設立された従来型のネットメディアとも、かなり様相が異なっている。「バズフィードの競争相手はニューヨークタイムズではなく、グーグルだ」ともいわれるほどで、単に記事を作ってウェブサイトに掲示するだけのメディアビジネスではなく、ある種のメディアプラットフォームとして駆動するようになっている。コンテンツが主体なのではなく、トラフィックを集めることが主体という言い方をしてもいいかもしれない。

 従来のネットメディアと大きく異なるのは、トラフィックの流入路だ。検索エンジンが主体ではなく、ソーシャルメディア経由が中心。バズフィードでは、なんと75%ものトラフィックがSNSからやってきている。このソーシャル共有で記事を拡散させるノウハウを確立しているところが、バズフィードの最も大きな武器だ。

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