ALIVE -MONSTER EDITION-
今、日本人はK-POPをどう捉えているのか――。
竹島問題の激化以来、ここ日本のマスメディアではK-POPへの反感や敵意が半ばデフォルトとなっているように見える。だが、そんな昨今にあってもなお、K-POPを高く評価する人々もいる。その最右翼(最左翼?)が、本誌『サイゾー』にて連載「ファンキー・ホモ・サピエンス」を執筆する音楽評論家の丸屋九兵衛氏だ。BIGBANGや2NE1を擁するYGエンターテインメントを中心に、「K-POPこそが、R&B/ヒップホップの流れを汲むローカライズド・アーバン・ミュージックの最高傑作」と論じてきた。
丸屋氏はブラック・ミュージック専門サイト『bmr』を主宰する人物だけに、こうした姿勢は、「K-POPを真剣に評価しよう」とする「楽曲派」のファンたちからは歓迎されていた。そんな丸屋氏が……こともあろうに、当のYGから「危険人物指定」、さらには「出入禁止令」を喰らったというのだ。この異変を察知した我が編集部は、丸屋氏を直撃した。
発端は7月6日、2NE1のライブ直後に丸屋氏が発信したツイートだった。
【2NE1、衝撃の歌詞】「Crush」でCLは歌う、「わたしをお手本にすれば、みんな可愛くなれるわ」。ご冗談でしょう、李さん! K-POP最強のブサイクなのに……。That's why I like her this much.
https://twitter.com/QB_MARUYA/status/485705373609762819
これについて丸屋氏はこう語る。
「他のK-POP事務所に比べて容姿を重視せず、"整形禁止令"まで発布したYG。その中でも、2NE1のリーダーCLは異質な存在です。YGのヤン・ヒョンソク社長が自ら、"ノーメークだと本当にブスなんだな"と発言したこともある。独特の愛嬌はあるものの、いわゆる美人ではありません。つまり彼女は、整形美人だらけのK-POP界で、実力だけでのし上がってきた天才肌のアーティスト。そんな彼女が歌う日本語詞への違和感から、思わずツイートしました。"K-POP最強"という部分は、文字通り"K-POP界でもっとも強い女性"という意味も込めたダブルミーニングでしたけど」
当初は、ツイッターのフォロワーから「『Ugly』と歌っていたときの方が説得力ありましたね」というような反応がパラパラある程度だった同ツイートが、悪い意味で拡散し始めたのは2日後の7月8日。
「ファンがいるのによくそんなこと言えますね。最低にもほどがあります」
「何様のつもりでそんなこというんでしょー」
「最低……かおはかんけいないとおもいますけど」
このようなネガティブなリプライが目立つようになる。それらを適当にあしらってきた丸屋氏が、ことの重大さに気づいたのは7月下旬のことだった。
「実は、スペースシャワーで放送される特集番組のために、BIGBANGのテヤン(SOL)にインタビューすることになっていたんです。しかし、その前の週になって番組制作担当から伝えられました。『丸屋九兵衛という人がYGの現場に来るのはマズい、とエイベックスが言っている』と。驚きましたよ、リツイートの件数はたかだか数十だったし、中傷ツイートはほかにいくらでもあるだろうに」
丸屋氏がさらなる衝撃を受けたのは、その翌日に(氏いわく「ふっ切れた気分で」)向かったBIGBANGのメンバー、D-LITEの武道館公演。そこで出会ったエイベックス関係者に、「できれば会いたくなかった」「YG JAPANのみならず本国のYGも怒っている」「とにかくYGライブには出入禁止」と告げられたのだ。
「舌禍もここまで行くと大物の風格がありますが、最初はショックでした」
この出入り禁止令は、その噂を漏れ聞いた業界内にも波紋を呼んでいる。特に、ラジオ現場で丸屋氏に関わってきたディレクターは、「丸屋さんはK-POPが国内で加熱する前からYGを応援してきたのに」と驚きを隠せない様子だ。
「丸屋さんは07年、最初期のBIGBANGにインタビューした1人です。その後も、竹島問題でラジオ局がK-POP自粛モードに入っていた時期に、"G-DRAGONのソロ曲をかけないなら、私は出演しません"と粘って、オンエアを勝ち取ったという逸話もあります。そもそも、件のBIGBANGインタビュー以前から、VERBAL(m-flo)を介してYGの古参アーティストと接触があったとも聞いています」(ラジオ局ディレクター)
話を総合すると、丸屋氏は熱心なYGファンであり、BIGBANGファンにして、2NE1ファンとしか思えない。今の日本の音楽評論界では、数少ないK-POP肯定派と言えるだろう。YGやエイベックスが敵視するには、もっとも不適切な相手ではなかったか?
「私は、R&B/ヒップホップの正統な後継者としてのK-POPを評価してきたという自負もあるし、問題のツイートの中でも"That's why I like her this much"と書いている。イジリを通じた愛情表現のつもりだったのですよ。それが炎上したこと自体は、多くのYGファンから同胞と見なされていないのが理由でしょうが、それをレコード会社が問題視するとはね……。
そういえば、2NE1のデビューに際して、エイベックスからコメントを求められて断ったことがあります。それが遠因だったりすると、もう笑うしかないですね。そのとき断ったのは、『〆切は明日』と無茶を言われたから。大型新人ならばなおさら、そのデビューへのコメントを1日で書けと言うほうが失礼ではないかと」
また、それとは別に、丸屋氏はYGへの懸念も語ってくれた。
「釜山で行われたBIGBANGファンミーティングで不祥事が起こったり、大阪での2NE1イベントが中止になったり……。所属タレントをアイドルではなくアーティストと見なし、その創造性を重視してきたはずのYGなのに、タレントを馬車ウマのごとく働かせる"普通のK-POP事務所"になってしまったという感があります」
それにしても、BIGBANGのテヤン(SOL)へのインタビューの機会を逸したのは無念そうだ。
「テヤンがフランキー・J(メキシコ系アメリカ人R&Bシンガー)の曲を弾き語りしている動画を見て以来、彼を同好の士と思ってきただけに非常に残念です。私はフランキー・J本人に、そのテヤンの動画を見せたこともあるし、R&B/ヒップホップとK-POPをつなごうとしてきました。まあ、その努力は誰も歓迎していない、ということの表れかもしれませんが……(笑)」
とはいえ、一連の騒動に氏の心が折れたわけではない。
「YGライブに出入禁止と言われても、チケットを買って入る分には誰も私を止められない。だから、これからも関係者は困るでしょうね。私はライブ通いをやめるつもりはないし、YG作品を論じ続けるつもりですから」
丸屋氏の情熱が、海を越えてYGに届くことを祈りたい。
丸屋九兵衛(まるや・きゅうべえ)
老舗黒人音楽雑誌あらためヒップホップ/R&B系ウェブサイト『bmr』の編集長。好評の自著『史上最強の台北カオスガイド101』に続き、『史上最強の江南(カンナム)カオスガイド88』を企画するも、暗礁に乗り上げ中……理由は、この記事を読めばわかったよね?
http://bmr.jp
http://twitter.com/QB_MARUYA
https://www.facebook.com/qbmaruyathemongolianx