――数々の芸能スクープをモノにしてきた芸能評論家・二田一比古が、芸能ゴシップの"今昔物語"を語り尽くす!
『ピアノソロ 安室奈美恵「Ballada」』(ピアノ・ソロ)
先日、安室奈美恵が独立するというネタが週刊誌で報じられた。芸能人が長く所属した事務所から独立することは決して珍しいことではない。近年では小林幸子。その独立の仕方を巡って女性スタッフと長期に渡り揉めて、マスコミを賑わせたのは記憶に新しいところだ。
「芸能人は売れてくると多少、天狗になりワガママになる。デビュー時から売れるまではマネージャーの言うことを素直に聞いていたのが、売れると立場は逆転し、マネージャーを顎で使うようになる。さらに、金銭面や仕事面で不満を持つようになり、独立という道を選ぶ。ところが、事務所側はここまで育ててきて、ようやく商売的にもうまくいき始めたのに、独立されたら育ててきた意味もないし、一気に儲けがなくなることから揉めてしまう」(芸能関係者)
金と仕事。そこに人間関係が絡むという構図である。我々、マスコミは芸能人よりもマネージャーらと接触することが多く、マネージャーの愚痴もよく聞く。大学卒業後、「芸能の仕事に興味があった」ことから中堅プロに就職したA氏は二年足らずで辞めてしまった。
「一年目は華やかな世界でつらい仕事ながら楽しかったのですが、二年目に女性アイドル歌手のマネージャーを担当させられて認識が変わりました。その子はとにかく扱いがひどかった。すでに売れていて入社前はテレビでも“可愛い子”だと見ていたのですが、楽屋では『肩を揉んで』『お茶がまずい。外でお茶を買ってきて』と人を顎でこき使う。なんで年下のこんな子に使われなきゃならないのかと、我慢できず辞めてしまいました」
外から見るのと中の芸能界は違うことをまともに体験してしまった。昔の芸能界は「芸能人もマネージャーも学歴不問」の世界だったが、近年は大卒も普通にいる。
余談だが、大手芸能プロに「東大卒」が入社してきて話題になったこともあった。「東大まで出て、なんで芸能プロに入るの」と揶揄されたこともあったが、東大卒のマネージャーとして業界内でちょっとした有名人になったこともあった。
今や一流大学出も普通にいるが、「芸能界に入れば女優や歌手とひょっとしたらいい仲になれる」というスケベ心が動機という男もいる。女子アナ志望の子が「アナウンサーになれば野球選手や芸能人などの、玉の輿婚に乗れる可能性が高い」というのと変わらないが、女子アナほど願いが成就する確率は高くない。マネージャーとの結婚は演歌の八代亜紀と水前寺清子ぐらいだ。
マネージャーは決して興味本位やスケベ心でできるものではない。「好きこそものの上手なれ」の言葉のように、好きでなければできないお仕事。「担当する女優でも歌手でも個人的に惚れこめば、どんな無理難題でも耐えられる」と業界の人がいう。
旧知の知り合いにその鏡のようなマネージャーがいた。何人も女優を抱えていたが、女優のためなら「土下座でもできる。そうやって仕事もとってくる」虫も殺さないようなやさしい顔でよくそう言っていた。飲んでいても、女優になにかあったら、酒を切り上げて飛んで行った。
著者ともやり合ったことがある。所属女優のスキャンダルを取材していた。新年号のため取材は年末だった。彼はすぐさま「会って話をしたい」と大晦日の夜、六本木の店にやってきた。そこでも土下座せんばかりに私を説得した。ちょうど除夜の鐘が鳴っている時間だった。そこまでやられると、少し記事に手心を加えることになった。また、こんな話もしていた。
「長年、女優のマネージャーをしていたら、彼女たちに言われなくても、“今日は生理だな”とわかります。生理の日はその人によって機嫌が変わったりするので、対応法として当然、把握しなければならない」
女優に惚れて仕事した結果、立場は逆転する。女優から慕われ、モテモテだった。ときには女優との仲をマスコミに取り沙汰されることもあったが、やがて、何人もの女優を連れて独立。社長の座に就いた。
惚れるのではなく惚れさせる。マネージャーとはそこまでしなければならない。何人ものマネージャーをわがままで変えた伝説を持つ中森明菜。大手事務所から独立後、六本木の黒服が一時、マネージャーをしたこともあるが、「超がつくわがままな明菜も好きな男には素直に言うことを聞く。彼女のマネージャーは恋人でなければできない」と言われていたゆえんであろう。
安室の独立騒動の影にも五十代の音楽プロデューサーがおり、その関係も取り沙汰されている。女性の芸能人が独立する場合、決まって後ろに男の影が見え隠れすることも、これまでの芸能史が物語っている。
ふただ・かずひこ
芸能ジャーナリスト。テレビなどでコメンテーターとして活躍するかたわら、安室奈美恵の母顔が娘・奈美恵の生い立ちを綴った「約束」(扶桑社刊)、赤塚不二夫氏の単行本の出版プロデュースなども手がける。青山学院大学法学部卒業後、男性週刊誌を経て、女性誌「微笑」(祥伝社/廃刊)、写真誌「Emma」(文藝春秋/廃刊)の専属スタッフを経て、フリーとして独立。週刊誌やスポーツ新聞などで幅広く活躍する。現在は『おはようコールABC』(朝日放送)、『今日感テレビ』(RKB毎日放送)などにコメンテーターとして出演。