(写真/永峰拓也)
『政治的なものの概念』
カール・シュミット(田中浩・原田武雄翻訳)/未来社(70年)/1300円+税
ナチズムの政治理論を支えたとされるドイツの法哲学者カール・シュミットの代表作のひとつ。人間の善性を政治理論から排除し、政治的なものの本質が友と敵との区別にあるという「友・敵理論」を提示した。
カール・シュミットは20世紀初頭から後半まで活躍し、多くの業績を残したドイツの法哲学者です。第二次世界大戦ではナチズムに協力したために日本ではとても評判が悪いのですが、法や政治の基礎について本質的かつ深い考察をしており、「ナチに加担したからダメ」と切り捨てるにはあまりに重要な人物です。
今回とりあげる『政治的なものの概念』は1932年にだされた彼の代表作のひとつです。その著作のなかでシュミットは、国家をはじめとする政治的なものはどのような原理で成立しているのか、ということを論じています。すなわち、そもそも政治の本質とは何か、という問題ですね。
シュミットは例として、道徳においては「善と悪」という区別がその本質的な原理となっていると指摘しています。善と悪という区別があるからこそ、道徳という領域が成立しているのだ、ということですね。同じように、経済においては「利」と「害」が本質的な区別となる。人びとが「利益を得よう」「損害を避けよう」とするからこそ、経済という領域が人間社会に成立するのだ、ということです。
では、政治においてはどのような区別が本質的な指標となるのでしょうか。それは”友”と”敵”という区別である、とシュミットは考えます。
ここでいう「敵」とは決して比喩的な意味における敵ではありません。それは具体的な意味において解釈されなくてはならない、とシュミットは強調しています。つまり、ここでいわれている「敵」とは、最終的には暴力を行使して殺害するところまでいきつく可能性のある相手だということです。ひるがえって「友」とは、そうした敵から保護すべき仲間、もしくは敵に対して共に戦う仲間のことです。要するに、暴力の行使をもいとわない対立が「敵」と「友」を区別させるんですね。そうした「友/敵」の区別が政治という領域を根本的になりたたせている、とシュミットは論じているのです。