ノマドワーカーへの憧れはもう終わり! サラリーマンを奮い立たせる池井戸作品の魅力

――安藤美冬、勝間和代よろしく、「自分を武器に、好きな場所で好きな仕事をしよう!」というノマドワーカーブームが去り、日本社会は今、「サラリーマン」という働き方に回帰しつつある。そうした労働社会の変化が、サラリーマンたちを描く池井戸作品ブームを巻き起こしているというが……。その真意とは?

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 サラリーマンをはじめ、労働者を取り巻く環境が著しく変化している。少し前なら、組織や特定の場所に縛られず、“自分のスタイル”で働くノマドワーカーがもてはやされていたが、いかんせん、コネと知名度がものを言うビジネスの世界。筆者もノマドワーカーの定義に入っているものの、コネも知名度もないので、遊牧どころか遭難している状態である。定期収入があって、保険や税金のめんどくさいこともやってくれる会社の素晴らしさを改めて実感しているところだ。

 そこにきて、近年の池井戸潤ブームである。このムーブメントを見ていると、実は労働者の会社回帰が進んでいるのではないだろうかと考えてしまう。評論家で『僕たちはガンダムのジムである』(ヴィレッジブックス)の著者・常見陽平氏は、この池井戸ブームと働き方への注目の変化を、『ガンダム』と『ワンピース』に例える。

「『ガンダム』って、昭和の会社なんです。入社したらなんとなく配属が決まって、いろんなことに巻き込まれていき、組織に反発するものの、順応していく……という物語。オタクっぽい少年のアムロが、なぜかパイロットになり、途中逃亡しようとするものの、徐々に当事者意識が芽生えていって、最終回には『僕には帰れるところがある。こんなに幸せはことはない』と言うって話ですよね。一方で『ワンピース』は、主人公自ら『海賊王になる』と言い放ち、理想の仲間がガンガン出てきます。その仲間も、『俺は世界一の剣豪になる』とかそれぞれ理想を持っていて、要は〈自己実現〉ストーリーなんですよ。アンダー30くらいの『好きなことだけ仕事にしたい』という家入一真、安藤美冬、イケダハヤトクラスタみたいな層には、この『ワンピース』的自己実現は万歳なんですが、実際に今、それで成功している人は多くはない。結局は、『会社の中でやりがいを見つけようぜ!』っていう『ガンダム』層が社会の大半であり、その支持世代が池井戸作品に惹かれているんじゃないでしょうか」

 さて、池井戸作品の中でも最大のヒットとなったドラマ『半沢直樹』の原作である『オレたちバブル入行組』と『オレたち花のバブル組』では、主人公・半沢直樹が組織の中で自身の正義を貫き通し、そのデキる男っぷりと、ムカつく上司をやっつける”復讐劇”が大いにウケた。

「僕は、『半沢直樹』って昭和のプロレスだと思ってるんです。軍団抗争や世代抗争などのわかりやすい構図があって、反則も凶器も乱入も、アントニオ猪木の『1、2、3、ダー!』みたいな決め台詞もある」(常見氏)

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