社会学者・橋爪大三郎が語る「中国よりも好戦的な日本と嫌中という"愚の骨頂"」

――中国はなぜ好戦的に見えるのか? ここまではこのテーマについて、歴史的、政治的な問題から検証してきたが、中国を知り尽くした賢人は、この問題についてどのように見るのだろうか? 大澤真幸、宮台真司との共著『おどろきの中国』が話題となった橋爪大三郎氏に話を聞いた。

中国が狙うのは、台湾との統一。写真は台湾市街地の町並み。

 21世紀の世界秩序がどうなっていくのだろうか──。日本人ならずとも、この問題は大きな関心のひとつであるはずだ。周知の通り、その鍵は中国という国家の動向にかかっているともいわれている。そこでは我々は、中国という国家を、どう読み解くべきなのだろうか? 中国を知り尽くした社会学の巨人に聞いた。

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──今、中国が尖閣諸島や南シナ海で、周辺諸国とさまざまな小競り合いを起こしていますが、これにはどのような意味があるのでしょうか?

橋爪 それらの小競り合いは、すべて中国の共産党中央の意図と計画の下に起こっています。その目的とは、石油が欲しいとか、領土が欲しいといったところにはありません。日本やベトナムを相手にしているわけでもありません。それは、中国の存在と勢力圏を尊重せよという、アメリカに対するメッセージなんです。その根本を探ると、中国はもともとは大国だったが、ここ100年ほどは大国としての尊重を得ていなかったという思いが中国自身の中にはある。それが最近になって経済もうまくいっているので、大国として認めろという、いわば起こるべくして起こっている要求なのです。

──中国の目的は、どこにあるのでしょうか? アメリカに対して対等な存在として認めろということでしょうか?

橋爪 対等とまではいかない。眼目は懸案の台湾問題について中国の主張を認めろということでしょう。台湾の併合こそ、中国の積年の悲願だからです。

 辛亥革命で中華民国を成立させた国民党が、共産党との内戦に敗れて逃げ込んだのが今の台湾。中国としてはこれを統一できてこそ、中国という国家が完成すると考えている。そこで参考になるのが、日本の沖縄返還。沖縄はアメリカが上陸作戦で日米双方に多大な犠牲を払ってアメリカの領土にしたが、日本がアメリカ陣営に属したことで日本に返ってきた。

 それと同じように中国は台湾を取り戻したいのだが、それでは台湾をめぐる米中関係は、沖縄をめぐる日米関係と同じかというと、だいぶ文脈が異なる。まず米中間には日米間と違って安保条約はない。さらに政治的価値観の共有もない。戦後の日本とアメリカの間には民主主義という共通項があったが、今の中国は社会主義市場経済になったとはいえ、アメリカ的価値観のレールには乗っていない。だからいざとなったら人民解放軍が実力で台湾を取れるという実力を身につけて、戦争になったら危ないとアメリカと日本に認知させる。

 その上で、住民自ら進んでロシアに編入されたクリミアのように、台湾人が自分から中国と合体したいと言いだすようにする。これが中国共産党が描く理想のシナリオです。

 政治状況としては、ニクソン大統領が1972年に出した上海コミュニケという声明で、アメリカは中国はひとつのもので台湾は内政問題だとすでに認めているんだけど、一方でアメリカは台湾問題で二枚舌を使っていて、台湾の政府は民主的に選挙で選ばれた政府だから、アメリカの政治的価値観の上ではこれを武力で打倒することは認めない。アメリカは台湾は内政問題だと言いながら台湾政府の存在を認めているんだから、どう考えても矛盾しているんだけど、クリミアのロシア編入が実現した今、ロシアにとってのクリミアよりも中国にとっての台湾のほうが正当性があると考えている中国は、しめしめと思っているのではないかな。東シナ海で中国の戦闘機と自衛隊機が接近したりしているのは、そろそろ台湾を統一したいという中国のメッセージだということです。

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