――STAP細胞騒動においては、メディアの報じ方も問題の一端を担っている。そもそも新聞のような一般メディアでは、論文はどう扱われてきたのか? 朝日新聞で30年にわたって科学記者として報道に携わってきた元論説副主幹・尾関章氏に、現在の科学報道と論文の関わり方から紐解いてもらった。
STAP細胞論文が掲載された「Nature」。1月30日号だった。
科学報道には健康や医療の情報、災害ニュース、環境問題、原子力問題といったプラクティカルなジャンルのほかに、基礎科学と呼ばれる分野があり、私自身は記者として、どちらかといえばここに力を入れてきました。この分野の報道では、この30年くらいの間で大きく変わったことがあります。それはまさに論文との関わり方です。
現在、基礎科学の報道においては、論文誌、とりわけ「Nature」や「Science」のような有力ジャーナルの影響力が非常に強い。研究者が論文を投稿し、掲載が決まった後、その論文についての情報発信を解禁する日をジャーナル側が発売に合わせて定めているのです。これをembargoと呼びます。その前提の下、メディアに対して「次週の雑誌にはこういう論文が載る」というプレスリリースが配られる。これを受けて個別取材があったり、記者会見が開かれたりするのです。
今回のSTAP細胞報道も、同様だったようです。各紙が第一報を報じたのは1月30日の朝刊ですが、朝日新聞などの記事に添えられた記者会見の写真を見ると、撮影日は1月28日と記されている。普通、新聞では取材の翌日に記事が出るものですが、そうなっていないのは、「Nature」側のembargoに沿ったものなのでしょう。こうした体制は全世界的に組織だってとられています。