理系研究者たちが大議論! 科学論文の脆弱性とギョーカイ裏話

――「論文とはなんぞや」という基礎の基礎から始めた本特集だが、科学論文の世界の内実は研究者に聞いてみないとわからない。そこで現役研究者と博士課程修了者に、現在の科学論文の世界の常識と非常識を大いに語ってもらった。

[座談会参加者]
A…理学系博士課程修了者・20代男性
B…医学系大学所属研究者・40代男性
C…理化学研究所所属研究者・30代男性

「週刊新潮」「週刊文春」が精を出す理研“失楽園”疑惑報道。ただ、韓国船沈没以降はそちらにニュースのメインがシフトした感じもある。

A まず最初に、今も研究の現場にいらっしゃる方に聞いてみたいのが、STAP細胞論文騒動についてどう見ているのか、というところです。

B 僕が一番気になったのは、笹井芳樹・理研発生・再生科学総合研究センター副センター長や丹羽仁志プロジェクトリーダー、若山照彦山梨大教授ら共同研究者が論文に不正があったことを知らなかった、と主張しているところかな。論文の著者として名前を連ねている以上、彼らも同罪だよ。理系の世界の業績【1】は論文がほぼすべてで、「Nature」に載った時点でそれは彼らの業績にもなっている。もしこの騒動がなければそのままインパクトファクター(以下、IF)を得て、来年度の予算や研究に関わってくるわけでしょう。良い結果だけは受け取って、後になって知らん顔するというのはあり得ない。当然チェックしておくべきだし、自分の名前を出してもいいと承諾しているんだから。

C うーん、僕はそこは反対意見ですね。だって、まさか同僚や共同研究者が不正な画像を使用するとは思わないですよ。僕も共同研究者から上がってきた論文を見て、整合性が取れていないところがあるとか、おかしいところがあればもちろん指摘するし議論もしますけど、それは想定を越えている。普通そこは疑わないですよ。彼らにとっても、とばっちりなんじゃないでしょうか。

A ただ実際問題、共著者がろくに見ていなくて名前だけ貸していることがないわけではないのが難しいところですが……。

B 自分のところの若い研究者が論文を出すとなったら、だいたいは僕の名前も載ります。そういうときは、研究をしている人や指導している人がしっかりしていれば、あまりうるさくチェックはしない。だから実際のところ「Nature」に載った論文で、名前は出ているけど中身や過程は全然見てないって人もいるだろうね。とはいえ、だからといって責任逃れするのは違うと思う。もちろん、ファーストオーサーである小保方さんの責任が重いのは当然だけど。

論文は「絶対」ではない無償のレフリーたち

A それから今回は「Nature」側の審査員であるレフリーにも「なぜ気づけなかったのか」という声が挙がっています。でも科学研究者の間では「Nature」の査読のチェックが甘いというのは昔から有名なんですよね。00年代前半にも、ドイツの物理学研究者の不正行為を気づかずに掲載してしまい、論文の取り下げをしています。【2】

B そもそも論文は、全然「絶対」のものではないからね。100本あったら過半数は再現性がない。生物学・医学系は、特にそういうのが多い。「この病気の原因物質が見つかりました」というようなものがよくあって、その後にほかの人が実験してみても全然再現できない。だから「Nature」や「Science」のような有名誌に載ったからって、実は皆あまり信用していないんだよね。そこからいろんな人が挑戦して議論を固めて、確認してゆく。

C 医学系だと、その発見が臨床で応用できるかどうかはまた先の話になりますしね。動物実験と人間では違うから。でも100本に1本でも確かな大発見があれば、それでいいんだと思います。

A 僕は物理学系の出身なので、少し違いますね。物理学系は研究自体が大きな装置を使ったり時間がかかるので論文を出すペースが他の分野に比べて遅いし、投稿の前から合っているかどうかの確認が、かなり厳しくなされます。共同研究者以外の人にもデータを渡して、理論計算を別の視点からチェックしてもらうこともある。他分野より物理学系は、ややオープン性が高いかもしれません。

B 生物学系の場合は、新発見がそのまま特許につながって、莫大な利益を生む可能性もあるから、研究がよそに漏れないようにかなり気を遣うよね。同じ研究をしている人が複数いたら、世に発表されるのが1日でも早かったほうが権利を持つ。だから「早く論文を出そう」という焦りもあったのかもしれない。

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