明治天皇はすり替えられた別人!? 菊タブーがトンデモ論を生み出す元凶

――皇室報道には過度なタブーがありマスメディアは自粛してきた。しかし、こうした風潮に反して近代皇室の実像を公式ではない資料をもとに果敢に批判・検証している本が、アングラな版元から出版されているのだ。これらが生み出す皇室陰謀論と、アングラ本が記す、近代皇室の裏面史とは?

『昭和天皇・マッカーサー会見』(岩波現代文庫)

 天皇・皇室に関する禁忌、通称“菊タブー”については、これまで本誌で何度も触れてきた。だが幕末以降の近現代における皇室に関する俗説には、提唱者がさまざまな文献を当たって調査・検証したことで、奇妙な説得力を帯びている論説が多い。

 なかでも終戦間際のゴタゴタは陰謀論にもつながるような話が生まれやすかったようで、例えば「皇族は終戦直前に財産を赤十字経由でスイス中央銀行に送金した」という隠し財産説や、「天皇は米国と事前取引し、天皇制の維持と引き換えに原爆投下を黙認した」といったものもある。

 こうした皇室にまつわる陰謀論を調べていく中で、本誌は、とある一冊の本にたどり着いた。陰謀論系の著作で知られる別府在住の竹細工職人にして郷土史家・鬼塚英昭氏による『日本のいちばん醜い日』(成甲書房)だ。同書は、「宮城(きゅうじょう)事件」(後述)について著者が抱いた八百長疑惑を発端として見えてくるショッキングな陰謀論の数々について、200冊近くにも及ぶ一般書を参考文献として研究、実証を試みたノンフィクションだ。世間に流布する皇室陰謀説について、さらに踏み込んだ話が満載となっている。

 本稿では、暴論覚悟の上で、同書の内容と鬼塚氏へのインタビューを基にしつつ、皇室陰謀説が生まれる背景を考察していこう。

天皇は「万世一系」ではない!?

 同書で扱われる陰謀論は、大きく分けてふたつある。まず一つ目が、皇室の血筋を疑うもの。もうひとつは、終戦にまつわるものだ。例えば同書では、今上天皇で125代を数える途切れない天皇家の血筋「万世一系」について衝撃的な説を唱える。終戦直後には、南朝(1336~1392年、一時的に分裂していた後醍醐天皇に属する朝廷)の血を引くと主張する民間人・熊沢寛道が“熊沢天皇”を名乗り出るといったトンデモ事件も起こったが、同書で提唱されるのはそんな生やさしいものではない。鬼塚氏が主張しているのは、「明治天皇はすり替えられた別人である」という過激なものだ。

 鬼塚氏によれば、幕末期、孝明天皇とその息子・睦仁(むつひと)親王は、明治維新の邪魔になるとして長州藩によって暗殺された。そして睦仁親王になり代わって明治天皇となったのが、長州の田布施(たぶせ)という集落の出身である南朝系の子孫、大室寅之祐(おおむろとらのすけ)だ、というのだ。しかも、田布施は北朝鮮の被差別部落民にそのルーツがあるというから、穏やかではない。

 俄には信じがたいが、田布施という土地に対する不可解さを別の方向から指摘するのが、経済ジャーナリストの鷲尾香一氏だ。鷲尾氏は、朝鮮総連中央本部の土地・建物の競売の落札者(その後断念)・池口恵観のルーツを調べていくうちに、彼の出身地である鹿児島と山口の両県にある田布施という同名の土地に行き着いたそうだ。

山口県田布施町のホームページでは、2人の総理大臣を輩出したことがうたわれている。

 言うまでもなく、鹿児島と山口は明治維新の原動力となった薩摩と長州であるばかりか、大室寅之祐の出身地・山口県の田布施からは、岸信介・佐藤栄作兄弟という2人の総理大臣が生まれている。鷲尾氏は、「兄弟とはいえ、総理大臣を2人も輩出した市町村はほかにない。こうした偶然を見ると、その土地の関連性やルーツを調べてみる価値はあるかもしれない」と訝しげに話す。

 ちなみに鬼塚氏は、「大正天皇には子種がなく、昭和天皇は実の子ではない」という大胆な自説も各著書で展開する。これに対して「天皇家を専門に研究している人間は、この手の諸説の存在はみんな知っていますよ」と鷲尾氏。「真偽のほどは知る由もないですが、125代も断絶しないで家系が続く方が、珍しいでしょう。ある家系を途絶えさせないために、代わりの子種を調達するケースは、歴史上普通にあった。不妊治療なんてもちろんなかったわけですし、可能性としてはあるはずなのに、こうした事実を検証することはタブーとなっている。マスコミにしてみると、これに触れて宮内庁出入り禁止になったら、皇室報道が立ち行かなくなりますから、当然ではありますが」(鷲尾氏)

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