――90年代に稀代のテレビスター“キムタク”を輩出して以降、ジャニーズの歴史はテレビドラマの歴史といっても過言ではなくなった。しかし、昨今では低迷の一途をたどる視聴率がジャニーズのパワーダウンの象徴のように語られ、新しいスターを生み出せないでいる。そんな隙を見て、EXILE陣営は俳優の育成にも力を入れだしているというが……。
成馬零一『ジャニドラの嵐 平成ジャニーズ・ドラマ完全ファイル!』(宝島社)
この項目ではジャニーズとLDHの若手によるドラマでの活躍ぶりを比較してみたい。芸能ビジネスにおいて、テレビドラマというものは長きにわたり花形の存在だ。それぞれアイドル、アーティストという本職があるものの、総合エンターテインメント商社である両陣営にとって俳優業への進出は目指すべき方向性であることは間違いない。
なかでも、歴史の古いジャニーズ事務所は、過去に大ヒット作を連発してきた木村拓哉を筆頭に、看板俳優を数多く抱える、ドラマ界でも影響力の大きな事務所である。
「ジャニーズに限らず、タレントや俳優の名前ありきでドラマを作ることには批判される部分もあります。ただ、ここ20年くらいを振り返ると、結果的にはジャニーズ主演のドラマが、新しいテーマやジャンルのドラマを開拓してきたとも言えます。87年からの月9枠では、トレンディードラマがヒットしましたが、織田裕二主演の『東京ラブストーリー』(91年/フジテレビ/22・9%)あたりをピークに、そのパワーが下火になっていきます。そこで、再び恋愛ドラマに息を吹き込んだのは、やっぱり『ロングバケーション』(96年/フジ/29・6%)のキムタクだったわけです。」
こう語るのは、ドラマ研究を専門とする日本大学芸術学部の中町綾子教授。ジャニーズ俳優が出演するドラマには、これまで才気あふれる脚本家との数多くの幸せな出会いがあったという。
「2000年代には、長瀬智也主演の『池袋ウエストゲートパーク』(00年/TBS/14・9%)をはじめとした、宮藤官九郎とジャニーズによる新しいスタイルの青春ドラマ群が生まれました。視聴率はそう高くなくても、DVDが売れたと聞きます。ある意味ジャニーズファンがドラマのパトロン的な役割を果たしていたといえるかもしれないですね。脚本家・木皿泉の名を広めたのも、亀梨和也と山下智久が主演した『野ブタ。をプロデュース』(05年/日本テレビ/16・9%)の存在が大きい。2人が主演だからと見始めて、木皿泉ワールドに引き込まれた視聴者層もいるでしょう。ジャニーズドラマには、本当にいい才能が集まっていますよね。ただ、最近はヒット作といえるものは生まれていませんが」(同)
単独初主演ドラマとなった『信長のシェフ』(13年/テレビ朝日)が、深夜枠ながら平均視聴率10・8%と好調だった玉森裕太が満を持して挑んだ『ぴんとこな』(13年/TBS/7・5%)が低視聴率に終わり、Sexy Zoneの佐藤勝利が初主演した『49』(日テレ)は平均2・4%、関ジャニ∞の大倉忠義が初主演を務めた今期ドラマ『Dr.DMAT』(TBS)が初回7・9%を記録するなど、若手ジャニーズの初主演ドラマは軒並み空振り。ベテラン組に目を移しても、亀梨和也の『東京バンドワゴン』(13年/日テレ/7・1%)、長瀬智也の『クロコーチ』(13年/TBS/9・5%)、滝沢秀明の『真夜中のパン屋さん』(13年/NHK/5・0%)とジャニーズ俳優の主演ドラマは不調といえる。ドラマの歴史を振り返れば、自ずとそこにジャニーズの存在があった。だが、テレビの世界においてドラマそのものの力が弱まっている影響もあり、今新たな才能とタレントの出会いによる相乗効果は期待できにくくなっている。『安堂 ロイド~A.I. knows LOVE?~』(13年/TBS)が、木村拓哉主演ドラマとしては最低となる平均視聴率12・6%を叩き出した今、ジャニーズから往年の“キムタク”のようなスターが生まれることはもうないのかもしれない。
ジャニーズ勢がドラマで苦戦している間、一方でLDHの俳優たちは少しずつ活躍の場を広げているようだ。元は「歌とダンス」にこだわってきた彼らが、ここにきて俳優業に力を入れだしたのには、のっぴきならない事情があるのだという。