――すでにパイの奪い合いといわれるソーシャルゲームの5000億円市場。パズドラの大ヒットで、これまでコンシューマー向けが中心だった大手メーカーも参入し、人材の奪い合いもエスカレートしてるとか!?
(写真/江森康之)
【座談会出席メンバー】
A:ソーシャルゲーム開発者
B:ゲームプロデューサー
C:ゲーム会社マーケティング担当者
A 今回、ゲーム企業の社員が集まって、ゲーム業界の裏話を聞きたいってことだけど、業界関係者が集まれば、話題の中心は求人・転職になりがち。2000年代はスクウェア・エニックス(スクエニ)、セガ、ハドソンといったコンシューマー向け大手ソフトメーカーのリストラなど暗い話題が多かったけど、ソーシャルゲームが盛り上がり始めたこの4~5年は、よりよい条件で採用してくれるゲーム会社はどこかが話題の中心となってるね。
B 13年に巻き起こった『パズル&ドラゴンズ(パズドラ)』(開発・運営ガンホー・オンライン・エンターテイメント。12年)の大ヒットは、業界を超えて話題となりました。パズドラのプロデューサー山本大介氏は、もともとはハドソンにいたゲーム開発者だというのは、業界では誰もが知ってる話。ハドソンが11年にコナミに吸収合併されたとき、元ハドソン社員の大リストラが行われ、その時に出た山本氏がたどり着いたのが、「ゲームは面白くてなんぼ」と話す森下一喜社長のガンホーだったという。それまでは目立ったヒット作がなかった山本氏が生み出した大ヒットに、多くのゲーム関係者が自分も一攫千金を狙えるはずだと沸きましたね。
C パスドラは、ゲームの開発者だけでなく、業界そのものにも影響を与えました。パズドラ以前はDeNA(モバゲー)やGREEが用意したプラットフォーム上でリリースするブラウザゲームが中心でしたが、ゲームの仕様に関する制約も多く、審査が通ったとしてもメーカー側がプラットフォーム使用料として課金売り上げの4割も取られるなどと高かった。しかし、パズドラは直接、iPhoneのApp Storeと、AndroidのGoogle Playから配信するネイティブアプリの方式で大ヒット。App Storeと、AndroidのGoogle Playであれば、使用料は3割ですむうえに制約が少なく、画像処理などの面でプレイステーション2クラスのクオリティがあるゲームが提供できる。製作費が億円単位に及ぶ作品を出し、赤字続きだったコンシューマー向け大手ゲーム開発会社が我も我もとネイティブアプリに参入しはじめているよ。
B ソシャゲ業界は数千万から1億円程度のコストをかけても、ヒットすれば、1カ月100万ダウンロード、初月の売り上げ2~3億円となり、結果的に何十倍もの利益があがる状態。オイシイビジネスだと気がついた大手各社が、ソシャゲに強い開発者の積極的なハンティングを行ってきた。なかでも、スクエニはスマホシフトの事業部制に再編。噂では、ゲーム開発グループを1グループまとめて引っこ抜きたいと、いろいろなオンラインゲーム会社の開発者と接触しているようです。
C 一方で、00年代に躍進したパソコンのブラウザ上でゲームをするオンラインゲーム業界は、スマホのソシャゲに押されっぱなし。元々はオンライン系企業だったガンホーは、頭ひとつ抜けましたが、ソシャゲに参入している会社はあるものの、前年比70%台と落ち込んでいることから、開発者の草刈場になっている。長時間労働がザラで、社内婚が多いゲーム業界ですが、私が聞いてうまいなって思ったのは、オンラインゲーム会社内で社内婚した夫婦で、夫は資金が潤沢なコンシューマー向け大手に、妻は自由がきくソーシャルゲーム会社に転職する……なんてパターンですね。
A どちらかがヒットを出せば、一生安泰だね(笑)。配信の時期が勝敗を左右しやすいソシャゲ業界では、これまでも関係者が顔を合わせれば、各社のゲーム配信のタイミングを探り合っていたわけだけど、夫婦間で他社のスケジュールがわかってしまうことにもなるわけか。
B ただ、オンラインゲーム会社も生き残りに必死。12年10月には、韓国系オンラインゲームのネクソンが、ソシャゲ会社のグループス(gloops)を365億円で買収。この金額が果たして適正な価格だったか、というのも疑問ですが、さらにグループスの創業者・梶原吉広社長(当時)は闇金での逮捕歴があるなど、関係者の間では首を傾げざるを得ない買収劇でした。まぁ、それだけソシャゲのコンテンツIPや収益力は魅力的だともいえる。梶原元社長は売却益への課税を嫌ってかシンガポール住まい。この2月になって、タレントの山本梓との結婚が明らかになるなど、これからメディアを賑わせそうです。
A ネクソンは同じ韓国系ということもあってか、LINEが分社化したゲーム部門NHN PlayArtの買収を狙っているという噂もあるね。
C 最近では、すでに草刈場になっているGREEですが、業界内というよりも業界外流出が多かった。12年には、モバゲーが優秀なアプリ開発エンジニアに最高年収1000万円、GREEが同じく1500万円という高額募集を行ない、その後も、GREEは新卒にも1000万円超の年収を提示するなど、ブラウザゲームのプラットフォームビジネスによるバブルを謳歌しましたが、コンプガチャ規制とネイティブアプリ化でバブルがはじけてしまった。元々入社するのが難しい同社に、高額年収で採用されたのは、どんな企業に行っても通用するスキルがある人。彼らは昨年、GREEのリストラが始まると、大手コンサルやベンチャー企業などに次々と転職を決めたようです。
B 悲運な転職話では、LINEが分社化する前のNHNJapanからGREEに移ったが、GREEが沈みだしたために、分社化したNHN Japanに出戻ろうとしたが、「出戻りは受け入れない」と断わられたケースもある。ま、最近はどこも求人は絞っているようですね。
A GREEのリストラでは、途中まで製作した20タイトルが開発中止になった。自社で抱えているにもかかわらず、収益性が悪いタイトルを社内担当者も含めて開発会社に引き受けさせるなど、人件費は徹底的に見直されている。GREEの懸念はスマホアプリの責任者になっているのが、青柳直樹取締役執行役員常務ということ。青柳氏は元ドイツ証券会社で投資銀行本部に在籍し、その後GREEに入社した人物。出世コースの海外部門で結果が出せずに国内に出戻ってきたと言われている。ゲーム好きじゃないとダメとはいわないけど、ビジネスベースでなく、ガンホーのように「ゲームは面白くてなんぼ」といった経営陣でないとゲーム業界では人材の流出も、ユーザー離れも止まらないかもね。
C なお、人材の面から言うと、ソシャゲ業界の特有の傾向として、各社が欲しがっているのはエンジニアよりもクリエイターと開発プログラマー。クリエイティブな人材をいかに確保できるかが問われています。とくに欲しいのはソシャゲのほとんどがカードゲームのため、画像掲示板やpixivなどのイラスト投稿サイトで人気の絵師は取り合いになります。ただ、課金システムでいかに稼ぐかがソシャゲの生命線ですから、顧客をセグメント化して、いちばん効率よく課金でき、ARPPU(課金者の客単価)も上げられるように分析するデータサイエンティストも、優秀な人材ほど引く手あまたですね。