――「フリーゲーム」とは、ネット上で無料公開されているゲームのことであり、パッケージ販売される商業ゲームの対極にある。そんなアンダーグラウンドなシーンの革新性に迫る!
バカバカしさが話題になり、群馬県にも感謝された『ぐんまのやぼう』。
一般的にフリーゲームというと、ネットでタダで配布されているものというイメージがある。パソコン用のいわゆるフリーソフトのゲーム版として「フリーゲーム」という言葉が使われているという印象だ。最近だとパソコンではなく、スマートフォンで無料のゲームをダウンロードして遊んでいるという人も多いだろう。
無料でダウンロードできるこうしたゲームは、インターネット以前のパソコン通信の時代からある。フリーゲームを専門に作る制作チームなども存在した。また、それよりさらに前の80年代には、パソコン雑誌に素人の作ったプログラムソースが掲載されていたり、フリーゲームが同梱されたCD-ROMやフロッピーディスクなどが雑誌の付録になったこともある。しかし、いずれにしてもこれらのフリーゲームとは、素人プログラマーによって、あるいはプロであっても仕事を離れて、たわむれに作られたゲームソフトのことを指す。
だが、フリーゲームはネットが普及した90年代後半以降、次第にその役割を変化させていく。特に重要なのは、即売会で金銭をもらって頒布する「同人ゲーム」と枝分かれしたことだ。同人ゲームとはその名からもわかるように、アニメやマンガなどのオタク系同人誌に近い存在。同人ゲーム専門の即売会のほか、コミケなど同人誌用の即売会で頒布されることも多い。
同人誌市場は90年代後半から勢いを増していったが、これと同時期に安価なパソコンが普及し、素人が手軽にゲームソフトを作れるようになった。これによって、フリーゲームや同人ゲームも人気を集めるようになっていく。特に同人ゲームでは2000年にサークル「TYPE-MOON」が『月姫』などのヒット作品をつくったため、さらに人気が拡大。サークル「07th Expansion」の『ひぐらしのなく頃に』など、任天堂やカプコンなど大手メーカーの作る商業ゲームとは一線を画した内容でありながらも、アニメ化されるほどの大ヒット作品が生まれるようになる。
要するに2000年以降の同人ゲームは、商業ゲームと肩を並べるほどの一大市場を築き上げたわけだ。最近は注目度が弱まったが、同人ゲームのサークルが会社化して商業ゲーム市場に参入したり、クリエイターがラノベやマンガなどほかのジャンルで活躍することも珍しくない。先ほど挙げたTYPE-MOONや07th Expansionも、そうした成功例の代表格だ。
同人ゲームがこれだけの成功を収めたのに対して、フリーゲームは巨大な市場には発展していない。無料で配布しているのだから当然かもしれない。
ゲーム作者が好む自由でジャンクな土壌
カルト的人気のサークル「アンディーメンテ」による作品たち。左上より時計回りに、尖閣諸島防衛シミュレーションの『守れ、尖閣!!』、医療シミュレーション『AIRAM EVA』、ファンシーショップの店員になって商品をラッピングする『ラブリー・ラッピング』、焼肉屋から始まるRPGの『やきにく』。
しかし、ここ最近になってフリーゲームは、単純に新規市場を開拓した同人ゲームとは別の面で注目されるようになってきた。その理由は全部で4つある。まず、現在の同人ゲームがある程度の商業性を持った結果、同人ゲームの作り手は客を満足させることを第一と考えるようになった。これに対してフリーゲームは、良くも悪くも、作者が客の要求にとらわれず、自由な発想でゲームを作れるジャンルとして知られるようになった。無料で作られているからこそ、「なんでもあり」な魅力があるというわけだ。商業性を嫌うアーティスティックなゲーム作者にはフリーゲームのこうした自由さを好む者が多いため、商業作品にはない独特のカラーを求めてフリーゲームで遊ぶファンが増えている。その代わりゲームの完成度は玉石混淆だが、たとえ“石”であってもジャンクな面白さが感じられるものもある。同人ゲームのようにコミケなどの一大イベントで頒布されるわけではないが、昔と変わらず目立たずネットで公開され続けているからこそ、アンダーグラウンドなシーンとして生き残り続けている。