――PCゲーム黎明期からファミコン創成期、そして現在に至るまで、ゲームの裏面史において数々の作品が陽の目を見ることなく発禁となったきた。さらにここ数年は、各国で製作されたゲームのローカライズが常識となっているが、お国の事情で持ち込み厳禁となるケースもしばしばだ。それらのやばすぎるゲームはなぜ、どのように生まれるのか?
吉田氏が監修した書籍にも発禁ネタ多数。画像はマイクロマガジン社から刊行された完全版。
家庭用ゲーム機が爆発的に普及した80年代以降、ゲーム業界では、マリオやソニックといったキャラクターが世界中の子どもたちから愛されるようになった一方、暴力的すぎるぶっ飛んだ描写や世界観のせいで物議を醸した、やりすぎソフトも続々とローンチ。どこかで凶悪な事件が起こるたびに、動機との関連性を疑われるなど、何かと目の敵にされるようにもなってきた。
そこでここからは、そうした社会的背景のもと、何らかの事情で発売や開発の中止を余儀なくされた、いわゆる“発禁ゲーム”の系譜をフィーチャリング。古今東西のゲーム事情に精通するライター、ジャンクハンター吉田氏に具体的な事例を解説してもらいつつ、現行のレーティング規制が抱える問題などにも言及していきたい。
では、まず“発禁ゲーム”はいかにして生み落とされたのか。ゲーム創成期の80年代から見ていこう。
「日本では、市場を開拓してマーケットの下地を作ったのが任天堂だから“ゲーム=子どもの遊び”という価値観が浸透してるけど、海外、特にアメリカなんかは、大人の娯楽としても十分認められてきた。だから、画面がまだいかにもゲームっぽいドット絵だった頃から、過激すぎて問題になるタイトルってのはままあったんだ」
任天堂の海外進出以前、アメリカのゲーム市場は“Atari 2600”などで知られるアタリ社の牙城。ファミリー向けに徹した任天堂のような哲学のなかった当時のアタリ社製ハードからは、いわく満載のソフトも数多くリリースされたという。
「代表的なところだと、ウィザードビデオゲームスっていうメーカーが83年に出した『悪魔のいけにえ』。プレイヤーがレザーフェイス(原作映画に出てくる殺人鬼)になって若者を殺していくっていうムチャな設定を売りにしてたんだけど、これにターゲットとかレディオシャックあたりのアメリカの大手チェーンストアからクレームが殺到。結局、発売中止になっている。当時は血のりも全然リアルじゃないし、人の首が飛ぶっていっても笑えるレベルの表現なんだけど、ちょうどこのぐらいの時期から、ゲームソフトそのものが倫理的に問題視されることが多くなっていった気がするね。
ちなみに、この『悪魔の~』には実はプロトタイプがあって、当初は2人同時プレイで、人間側とレザーフェイス側に分かれて戦う、言わば鬼ごっこみたいな仕様だったの。それがフタを開けてみたら、人間をひたすら殺しまくるゲームだったとなれば『話が違う』ってことになるのは当然っちゃ当然だよね(笑)」
その後、件のウィザード社はこれまた問題だらけな名作ホラー映画のゲーム版『ハロウィン』を最後にあえなく終焉を迎えるも、やりすぎソフト濫造の動きは90年代に入ってますます加速。シュワちゃんがなぜか民間人を殺すことができる映画原作もの『トゥルー・ライズ』(95年)や、本国アメリカを含む13カ国で発禁となった『ポスタル』(97年)シリーズ。発禁スレスレの過激な描写で、いまやバイオレンスゲームの代名詞ともなっている『グランド・セフト・オート』(97年)シリーズといった人気タイトルが、その悪名を世界中に轟かせることになっていく。
一時的にでもアップルの審査を通ったことが驚愕の『スーパーストリーカー PRO』。
「90年代の初めぐらいまでは、ゴアシーン(=残酷描写)のあるゲームも、任天堂のハード以外ではわりと日本にも入ってきていて、メガドライブの『ソード・オブ・ソダン』(91年)とかでは、首を飛ばしたりってシーンも普通にあったんだ。
けど、ハード自体の処理能力が格段に上がったプレイステーションの登場で、そういう部分にもデリケートにならざるを得なくなってきた。実際、98年に出た『バイオハザード2』なんかだと、主人公が噛み殺されていくシーンで終わる海外版のゲームオーバー画面が、国内版ではグロすぎるってことで全カットになっているし、その後のシリーズも、CEROができて以降は、よりマイルドな描写に差しかえられている。
この手のタイトルは、表現規制の厳しいドイツやオーストラリアで事前にマイルドにされたバージョンをもとに国内版を作ることも多いから、それしか知らない人がアメリカ版をプレイしたら、まるで別物ってぐらいゴアシーンが満載なことにたぶんビックリすると思うよ。次世代機のXbox Oneと一緒に出ると言われている『デッドライジング3』にしても、現行のままだと登場人物が自分で首をかっ切って、その切断面がモロ見えになったりするシーンもあるから、国内版ではかなりの規制が入るだろうしね」